其ノ七
 

 焚き火の真上にその蜘蛛を持って行き、雨露はパッと手を離す。
 ギャッと短く蜘蛛は鳴き、黒い煙と共に跡形もなく消えていった。
 その煙の臭いこと臭いこと。翡翠と女性は着物の袖で鼻と口をおさえている。
 しばらくするとその臭いは徐々に収まった。

「あ、あの。ありがとうございます。私(ワタクシ)は“蓮”と申します。あなた方は……」

 蓮と名乗る女性は、髪は質素な垂髪で眉は麻呂眉。前髪は眉の上で綺麗に切りそろえられている。そして、どこかの姫のような可愛らしい顔つきで優しい雰囲気を持っていた。

「僕は雨露です」
「翡翠だ。……、どこかの姫様か?」

 自己紹介をした後、ついでにと翡翠が尋ねる。
 その問いに蓮は一瞬キョトンとし、すぐににこりと笑った。

「私はここ、鳥羽の村娘です。お姫様なんかじゃありませんよ。ちょっと山菜を採りに来ていたのですが、奥に入りすぎてしまったみたいで……。お二人が居て本当によかったです! 助かりました」

 そう言うものの、彼女は肝心の山菜を持っていない。雨露が控え目にその事を伝えると蓮は顔を少し紅く染め、あっ……、と小さく声を漏らす。
 どうやら手に持っていないことをすっかり忘れていたようだった。



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