其ノ六
 

「…………、何一人で食べてるのさ……」

 先に起きていたらしい翡翠は、森に自生していたキノコや川で採った魚を枝に刺して焼いた物をもしゃもしゃと食べていた。

「雨露の分もちゃんとあるぞ?」

 そう言いながら焼いた魚をこちらに投げて寄越す。
 雨露はそれをしかめっ面で受け取る。

「物は投げちゃ駄目だよ翡翠」

 短いお説教をし、雨露はカプリと魚の腹にかぶりついた。
 それはまだあたたかく、口の中いっぱいに魚の旨味が広がる。
 幸せそうに目をつぶって味わっていたら、きゃあああっ! という甲高い女性の悲鳴が聞こえてきた。
 その悲鳴は段々と近付いてきて、こちらに向かってきているということが解る。そしてその人の後ろを弱い妖気が追い掛けていた。
 ガサリと音がし、茂みの中から一人の女性が姿を表す。

「た、助けてください!! く、くく、くもが!!」

 女性は翡翠の後ろへ逃げるように回った。
 翡翠は慌てに慌てた女性の悲鳴に驚き硬直しており、雨露は雨露で座りながら暢気に魚を頬張っている。
 ギチギチギチギチと耳障りな鳴き声を発しながら妖怪は近付いてきた。
 ひいっ! と悲鳴を上げる女性。
 雨露はクスクスと笑いながらその妖怪を掴み持ち上げた。

「蜘蛛の妖怪の子供じゃん」



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