其ノ四
ふと暇に思えて背後に座っている翡翠と喋ろうと雨露は後ろを向こうとする。
だが、背中に感じる温もりに雨露の顔からサーッと血の気が引いた。
「ちょっと! 馬鹿なの!?寝たら海に落っこちちゃうでしょう!!?」
そう声を掛けても返事はなし。
逆に未だ背中にある温もりにこちらまで眠くなってきた。
こうなったら! と雨露はゆっくり振り向き、翡翠の肩を掴んで前後左右に揺する。
「翡翠ーっ!! 起きてってば!流石に普通の鮫に僕のお札は効かないからね!!」
「うあ!!?」
少しの間そうやって揺すっていると、翡翠は驚きの声と共に目覚めた。
「僕だって眠いんだから我慢して! 鳥羽に着いたら、お昼寝? ……朝寝? するからさあ!」
「眠い」
「我慢!!」
眠いに我慢で返し続ける口論をひたすらにしていると、下から亀の声が聞こえる。
「着いたぞー」
そう言われ前を見ると青い空に白い砂浜、そして森の緑が広がっていた。
「これでやっと寝れる……」
雨露は疲れきった顔でそう言い、ふあっと欠伸を一つ漏らす。
ふわりと亀の背から二人は下り、白い砂浜に足跡を作った。
「亀さん、ありがとう。本当に助かったよ」
「助かった、ありがとう」
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