其ノ一
 

 銀露はいかにもどうだ! という顔をし、翡翠はうなだれ、雨露は半ば呆れていた。
 理由は数分前に遡る。
 二人が虎白に言われ急いで海岸へ向かったところ、銀露は海亀と話していたのだ。
 翡翠達の存在に、気付きそうに無かったので声を掛ければ、何とも清々しい笑みで言う。

「こやつが背中に乗せて鳥羽へ行ってくれることを許してくれたぞ! 良かったな!」

 それで冒頭のようなことが起きたのだ。

「あの……。銀露さん」
「なんだ?」
「いくら何でもその小さい海亀には乗れません! 大は小を兼ねるが小は大を兼ねないってよく言うでしょう!?」

 雨露がそう指摘する。彼が言った通り、海亀は小さいのだ。
 ちょうど両の手に乗る大きさであり、とても人二人が乗れる大きさでは無かった。
 やっぱり式紙で行くべきだと雨露は思う。
 それに、自分達は昔話で見た浦島太郎では無いのだ。海の中で息が出来るわけがない。
 雨露は溜め息を吐きながら自らの懐へと手を伸ばす。

「待て待て! こやつは只の海亀では無いぞ! こやつはまだ幼子だが、でかい。二人だけなら楽々乗れる」

 そう銀露が言い、海の中へと亀を下ろした。
 途端、不思議なことに、あの小さかった海亀が小山ほどの大きさに姿を変えたのだ。



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