其ノ三十五
血に触れると同時にぬるりとした感覚が手に伝わる。それに寒気を覚えたが、今はそれどころでは無かった。
苦無が飛んできた方向を見やれば、くちなわを挑発した少年が居たからだ。
少年は素早い動きで苦無を広い、布で雨露の血であろうものを綺麗に拭う。
「やっぱりくちなわじゃ殺せなかったー!」
「まあ、仕方ないよねー」
手に着けている人形で会話を成立させている。
顔は黒い布や前髪で隠れているため表情は解らない。
だが、それが不気味さを引き立てていた。
「お前は誰……?」
雨露が口を開く。
しばしの沈黙が流れた。
少年は右手の人形を雨露に向け、声に合わせて動かし始める。
その動きで辛うじて見えた少年の目は、黒く黒く淀んでいた。
「人狩リの味方の殺し屋ー。今はこれしか言えない!」
今度は左手の人間をこちらへと向け、先ほどと同じ様な行動をとる。
「くちなわの鱗を回収しに来ただけー。まだお前達を殺すつもりはないー! 鉞影からのでんごーん。セイゼイタノしませてねっ。ふふっ。だってー」
そう言って、鱗を数枚持ち、少年は風の如く立ち去っていく。
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