其ノ三十三
 

「いざ。参る」

 そう言いくちなわに一太刀、一太刀を確実に浴びせていく。
 その動きは素早くも滑らかであり、舞を舞っているようにも見える。
 ゆらゆらと揺れる火に照らされ、赤く輝く翠玉色の刀身も美しい。
 一方、くちなわは焦っていた。妖怪にこの身体を渡してから、妖刀でさえも、体に傷を付けられ無かったからだ。
 皮膚は堅い鱗に覆われ守られている。
 どうせ今回も大丈夫であろう。そう思っていたのだ。
 だが、今目の前に居る眼帯の男はこの肌に易々と傷を付けている。
 ドンッと身体が壁にぶつかる音がした。
 翡翠の鋭く冷酷な瞳がくちなわを見据える。
 その今までに味わったことの無い恐怖にくちなわの足はガクガクと竦み始めていた。
 翡翠は振り上げた刀を容赦なくくちなわの首へと下ろす。
 首にびっしりと生えていた堅い鱗は守るという役目を果たさず、刀の刃を易々と受け入れた。
 くちなわの首は血とともに吹き飛び、ごろりと翡翠の足元へと落ちる。

「悪いがこれが俺達の仕事だからな」

 そう言い、まだ動き出しそうな頭の無くなったくちなわの体の心の臓に当たる部分に、刀を突き立てればくちなわの身体は丁度手のひらに乗る大きさの鱗となり崩れ落ちていく。



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