其ノ三十二
 

「まあ、頑張ってねー!」

 少年は先ほどとは逆の人形をくちなわに向け、何時の間に出したのか煙玉を地に放り投げる。
 煙が消えた頃には、既に姿を消していた。

「舐めやがって、あのクソ餓鬼い!」

 くちなわは懐から出した蛇の鱗を怒りに任せ投げている。
 投げられた鱗は地に落ちると同時に命を持った蛇へ、うねうねと姿を変えていく。
 それを見た翡翠は早速、うっ……と顔を真っ青にして呻き、吐くのを抑えるように、手で口元を覆っている。

「気持ち悪い……」

 ぼそりと呟いた翡翠の声に気付き、くちなわはぎゃーっ! と口を開けた。

「蛇の良さが解らないだなんて!! 蛇はな!」

 呆れ顔の雨露が、蛇について力説しようとしているくちなわを止めるように翡翠に話し掛ける。

「あのさ、翡翠。蛇無理なんだから、無理に見てなくて良いよ。僕が蛇を片付けるから今回は翡翠は本体ね。蛇の事は僕に任せて、翡翠は本体から余所見をしないこと」
「俺っちの話を聞け!!」

 くちなわを無視し、雨露は大丈夫? と翡翠言いながら、迫ってきていた蛇へと札を飛ばしていく。
札を貼り付けられた蛇は激しくのた打ち回り、断末魔を発して砕け散っていった。だが蛇は次から次へと湧き水のように出てくる。
 隙を見てちらりと翡翠の方を見れば、腰に差してあった刀の柄に手を掛け、すらりと刀身を鞘から抜いているところであった。



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