其ノ三十一
 

 ずるり、ずるりと胴を引き摺る音。履き物が土を擦る音。
 それらの音が近付いてくるに連れ、翡翠と雨露は気を引き締めていく。
 後方からは騒ぐ声、怯える声が聞こえてきた。それだけでどれほど怖い目に遭ったのかが窺えた。

「へえ……。鈴丸の言った通りだな。若い鼠が二匹も居らあ」

 耳に纏わりつくような声が聞こえる。
 その声から遅れること数秒。暗闇から声の主が姿を現した。
 この者は瑞江に聞いた通り妖怪と契約を結んでいる。左の頬にその証である血色の模様が浮かびあがっていた。

「霊能者に侍か。悪くねえ組み合わせだな」

 品定めをするような目で二人を見た後、腕に付けられたら武器を構え待機していた少年の方へとくるりと向きを変え一言。

「血の気が多いなあお前は。コイツらは俺っちの獲物だ。今回お前は手出だしするんじゃあねえぞ。それに、こんな弱っちいヤツら俺っち一人で楽勝だ」

 解ったな? そう言い少年を睨みつけた。
 少年は睨まれたのをお構いなしに手に着けていた人形をくちなわへと向ける。
 人形を向けられたくちなわは何だよ、と言いたそうな顔をし言葉を待った。

「解ったー! でもお前じゃ勝てない!」

 場違いな無邪気な声が響く。くちなわは侮辱されたことに怒り、一体の蛇を少年へと飛ばした。
 それは牙をむき、勢い良く少年の細い首へと一直線に向かっていく。
 バッと鮮やかな血が飛び散る。その血の持ち主は少年ではなく蛇の方であり、鈴丸と呼ばれていた少年は、顔色一つ変えずに蛇を切り裂いていた。



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