其ノ二十九
 

 その中には身分など関係なしに詰め込まれた人々。
 農民の格好をしている者も居れば、帯刀している侍も居る。煌びやかな着物を纏った貴族も、この中では威厳などこれっぽちもない。その自慢であろう服は土で薄汚れていた。

「お、お前達はヤツの新しい仲間か!!」

 先ほど聞こえたものと同じ声が飛んでくる。
 今度はきちんと姿も確認できた。
 もう止めてくれ。そう泣き叫ぶ老人に、気の良さそうな黒髪の美しい娘が落ち着いて。と声を掛けた。

「あの、僕達はあなた達を食べたりなんてしませんよ」

 そんな言葉だけでは安心するわけもなく、他の者達までもが騒ぎ出している。
 そこで雨露は、顔さえ真っ青だが、一番落ち着いていた先ほどの娘に声を掛ける事にした。

「あの、僕は雨露。こっちの緑色は翡翠っていうんだけど。名前を聞いても大丈夫……?」

 そう言えば、戸惑いながらも“瑞江”ですと、名前を教えてくれる。

「ここに居るのは白虎の人達で間違いない?」

 瑞江は心配そうに顔を歪ませながら軽く頷く。その時。何かあったらと外に配置しておいた式紙の一つが噛み千切られた感覚がした。

「時間が無いからゆっくり聞けないけど……。どうして、こんな所に居るの?」

 雨露は時間稼ぎの為の新しい式紙を放ちながら彼女に問う。
 瑞江は蒼白しながらも数日前の事を話してくれた。



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