其ノ二十八
翡翠は手近にあった松明を手にする。
二人は足音を立てぬようゆっくりと、そして慎重に歩を進めた。
頼りになるのは翡翠の手に握られている大松の明かりだけだ。ゆらゆらと揺らぐ炎は、二人の影を大きく壁へと映しだしている。
「この先に何があるんだろうな」
静かに。それを手で表現する雨露に、翡翠は慌てて口を閉ざす。
小声で話しても、ここでは響いてしまうようだ。
そうこうしている間に、また広い空間へと出た。
だが、そこは最初の空間とは違い肌寒く、壁に括り付けられている大松の数も少ない。そのため辺りは薄暗かった。
「だ、誰だね?」
大松が無く、暗い方から嗄れた声が聞こえた。
暗い為確認はできないが、声からしてかなりの年齢の男性だということは解る。
「また……、また儂等を食うつもりか」
同じ声がまた聞こえた。怯えているような声色で。
口にしている言葉に疑問を思った翡翠と雨露は、大松を声の聞こえた方角へ向け、近付いていく。
近付くに連れてはっきりしていく輪郭。
本来は罪人を捕らえておく為に使う、鉄格子でできた牢屋の中に、白虎の国の者達であろう人々が閉じ込められていた。
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