其ノ二十六
翡翠は何か明かりになる物は無いかと辺りをキョロキョロする。だが、それらしき物は見付からない。
その時、翡翠と雨露の後をひっそりと付ける者がいた。
気配を殺し、足音も殺す。息づかいさえも上手く殺している。
それ相応の訓練を積んでいるのだろう。
二人のすぐ後ろに居るというのに、雨露も翡翠も気付かず洞穴の奥へ、奥へと歩みを進めている。
背丈は低く、年齢は十くらいだろうか。真っ黒な髪。真っ黒な服が、洞穴の闇と溶け合っている。
その中でも一際目立つのは紅い色が映える着物。靴の留め金の銀色も微かな光を受け、鈍く輝く。
だがその輝きは奥へ進むと共にもとより淡い輝きを失っていった。それと同じように、漆黒の髪を靡かせる風も徐々に止む。
それは洞穴の出口がかなり遠くにあるということを意味していた。確認などできないため、出口があるのかさえも解らない。
そんな中、雨露は不満そうな声を上げた。
「ねえ翡翠。子供なんて居ないじゃない。真っ暗闇で辺りも見づらいしさ。子供が居るなら声だって聞こえるし、足音だって聞こえるはずだよ」
前にはどこまで続いているのかも解らない真っ黒な道。
心なしか道も徐々に狭くなってきている。
「そう、だな……。奥に進めば進ほど、空気も淀んできているしなっ!!?」
雨露の背後から突如として翡翠の気配が消えた。
遅れて聞こえるどすんという人が落ちた音。同時に聞こえたうっ……、と痛みに呻く声。
それは洞穴の岩壁にぶつかり、こだまする。
雨露は慎重な動きでしゃがみ、翡翠が消えた場所を手で探ってみた。
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