其ノ二十三
 

 その途端にびくりと震える身体。
 手を置いた翡翠自身もびっくりし、慌てて手を離す。

「あ、翡翠。ごめん」

 雨露はハッと我に帰り、翡翠を見る。
 気付いて良かったと思いながら、翡翠は先程言った問いをもう一度雨露に言う。

「あー……。そうだね。僕達じゃ触れないし、式紙が燃えたって事は、霊力封じも施されてるし……」
「無理そうか?」

 翡翠は不安な目で雨露を見る。
 手はあると言えばある。だが、雨露からしてみればあまり使いたくは無い手だ。しかし、そんな我が儘を言っている場合ではない。
 人命が懸かっているのだ。

「大丈夫。助けられる方法が一つだけあるよ」

 そう言えば翡翠の目からは不安の色が消え、きらきらと音が出るのではないか、というほどに輝いた。
 雨露はやれやれと思いつつ、懐に手を入れ他のものとは雰囲気が違う紙を出し泡沫、と口にしながらその紙をふわりと宙に投げると、それは眩い光を発し、目の前に雨露と同じ形をした人物が現れる。

「翡翠。これが泡沫。僕と契約をしている上級式“神”だよ」

 目の色が違うだけで、他は全て雨露にそっくりな泡沫を見て、翡翠は唖然としていた。

「で? 呼び出した理由は何なんだよ」
「あの岩を退けてほしいんだけど」

 指を指した先には人封じが施された岩。
 それをちらりとみた泡沫は、主である雨露に文句を言い放った。

「この姿のままじゃ無理に決まってんだろ。退けてほしけりゃ元の姿返せ。元の」



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