其ノ十七
後ろを振り向けば真っ青な顔をした翡翠。今にも吐きそうな顔で口を開く。
「俺、どうしてもかさかさしてたりうねうねしたやつが無理なんだ」
そう言い苦笑しながらピシリと固まっている翡翠は、まるで精密にできた石像のようである。
新たな一面が知れた。雨露は思いながら、固まる翡翠の横に行き、頬を軽くツンツンとツツいた。
「翡翠ー。はやく動かないと、時間の無駄だよ? 僕さすがにここで一泊したくはないな……」
そう少し大きな声で言うと、翡翠はピクリと体を動かす。
「あ、ああ。すまない……」
ははっ、とまたもや苦笑いをこぼしながら、翡翠はようやく平常に戻ったようだ。
「ほら、この村の人のお墓つくってあげなくちゃ。とは言っても、本当に遺体は数体しか残ってないんだけどね……」
結界の中は時間が止まったかのように天気がない。降っていた雪が積もっていない所を見ると、この結界は最近張られたものだ。
夕日が暮れた頃、二人は亡くなった村民を全員弔い、手を合わせてから村を出る。まだまだ白虎(シラトラ)までの距離はあった。
雨露と翡翠は、この先に宿があることを祈りながら少しはやめに歩みを進める。
二人の後ろには長くなった影がついてきていた。
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