其ノ十九
雨露と翡翠は短い会話を少しだけした後、雨露は式紙の半分を翡翠に預け、一旦別れた。
雨露は南と北を。翡翠は西と東を見て回る為だ。
「それにしても人が居ないだけで綺麗なままだ……」
暴れた後も無ければ血痕も無い。怪しいとすれば国等しき人物の社なのだが、何の妖怪が居るのかわからないそこは、きっと一人で突っ込んで行っても死にに行くようなものだ。
そのため、きちんとした手掛かりが無い以上、突っ込んでいくのは止めようという結論になった。もし手掛かりが掴めたのなら、最後に雨露と翡翠、二人で共に行くことになっている。
「よし、一班の式紙達は南ね」
班分けした式紙達に命じ、細かく手掛かりを探し始めた。
「お前達、本当に不思議だよな」
翡翠は何も言わない式紙に話掛けていた。
普段山で銀露と共に住んでいる翡翠からしてみれば物珍しいのだろう。
喋らない式紙を小突きながら、翡翠も手がかりとなるものを探していた。
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