其ノ十八
 

 あの村を出立してから何日目かの早朝。翡翠と雨露はやっと白虎に着いた。
 着いたのはいいのだが。

「人の気配が無い、な」

 そう翡翠が言った通り、人の気配が微塵にも無いのだ。
 早朝だとしても、仕入れに行く店の者は既に起き、町を出ているはずだ。
 そして微かに残る妖怪の気配。だが、前のように血生臭さは無い。なぜだかこの白虎に残る邪気には覚えがあった。
 だが、後少しというところで思い出せない。それは、ここに着く前に何度も妖怪と出会ったからであろうか。またもや記憶の操作でもされたのであろうか。
 そんな事を考えていても、今ある情報で、有り得る事は一つしかない。

「妖怪に攫われた、としか言えないよね……。手分けして手掛かり探してみようよ」
「そうだな。……あ、でも一国を全部見ていたら何日も掛かるぞ?」
「その事なら大丈夫。これ使うからさ」

 雨露はそう言い、懐から手の平に丁度乗る大きさの人型の紙を取り出した。

「何だそれ。紙?」
「式紙って言って、僕の霊力を実体化させるんだ。こんな風にね」

 翡翠に説明をしながら数枚、地面に投げる。丁度、雨露と同じ大きさになった後、ぴたりと止まった。

「なんか白い人の形をした塊みたいだな」

 式紙は全身真っ白で髪はなく、顔に“式”と書かれた面を付けている。



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