其ノ十五
その臭いを我慢しながら進んでいく。
姿が見えてきた。少し足取りをはやめ、しっかりと姿を確認した。
だが、何でだろうか。凄く溜め息を吐きたくなった。
「ねえ。きみがあの結界を張ったの?」
「うん」
そこに居たのは真っ白な巨大蛇。雨露を見つけた途端に男の子の形(ナリ)へと変化した。
「あのさ、村の人はどうしたの?」
村人達には無事でいてほしい。
だが、それは無理な願いだろう。
蛇の周りは夥しい程の血痕。
いくら見ても血にはなれない。あの生臭い香りも、ぬるぬるとした生暖かい感覚も。雨露は軽く顔をしかめた。
「僕を見たら逃げちゃったんだ。酷いよね。一緒に遊んで欲しかったのに……」
「そう……。でもさ。僕を食べようとしちゃ駄目だよ」
見え透いた狂言だ。
今、雨露の背後には蛇の頭がある。
懐から札を取り出し素早く額に貼り付けた。途端、ばちりと眩い光がはしる。
それと同時に結界がこじ開けられた事が解った。外の空気がスッと入ってくる。
「思った通り……」
そう呟いた途端に断末魔が響く。弱ったことで人の姿を保っていられなくなった蛇は、おのれ。おのれおのれおのれ!! そう叫びながらずるずると長い胴体を引きずり、間合いを詰め始めた。
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