其ノ十三
 

 一方翡翠はあたふたしていた。
 突然隣を歩いていた者が消えてしまったのだ。驚くな、というには無理があるだろう。聞こえるかは解らないが、彼の名を口にした。

「雨露……?」

 外から翡翠の声が聞こえる。このくらいの結界、雨露ならば札一枚で破れる。所詮その程度のものなのだ。
 だが、はやく村を調べたい。札一枚取り出す時間も無駄に思えて、雨露は翡翠にこう言う。

「翡翠、この結界は翡翠の妖刀で壊せるよ。僕は村の中を調べてくるからさ」

 雨露はそう残し、村を調べ始めた。

「雨露!! おい!」

 翡翠は溜め息を吐く。結界が張られているということは理解した。だが、結界を刀で斬れるとは思えないのだ。
 そんな話も聞いたことは無い。
 だが、どうやら雨露は声の届かない場所に行ってしまったらしい。いくら声を掛けても返答は無かった。
 ただ突っ立っているだけ。それは性に合わないということは自分が一番知っている。翡翠はこう見えても意外と血の気が多い。
 彼は一度溜め息を吐くと、翡翠は柄に手を掛け、愛刀を勢い良く引き抜いた。



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