其ノ十二
「雨露は面白いな」
面白いだなんて初めて言われた。
何時も無愛想だの何だの、もっと愛想良くしろと注意されてばかりだったのに。
雨露は不思議になり翡翠に問うた。
「どうして?」
自分の事ながら、自分ではどこが面白いのか全くもって解らない。
「表情がころころ変わるから」
「そっか。ありがとう。でも翡翠もだよ」
翡翠も自分でも気がつかないうちに表情がころころと変わっていたようだ。
雨露はにこりと微笑んだ。
こんなに楽しいのは久し振りのような気がする。普段一人だからこんなに人と喋るのも久し振りだしね。
そこでふと思う。自分は一人で暮らしていたが、翡翠は誰と暮らしていたのだろうか。
「あのさ。翡翠は誰と住んでたの?」
「銀露。物心ついた時にはもう銀露のところにいたな。だから父と母は知らん。だから、あいつが父兼母だ。あの変態からしてみると違うらしいがな」
銀露、か。銀露って一体何者なのだろうか。旅をしていれば会えるだろうか。
楽しみだな。そんな浮いた考え事をしながら足を運ぶ。
「翡翠。村がある」
「村……?」
翡翠は解らないのだろうか。
目の前には確かに村がある。
小さな村だが、家々は立派だ。作物が豊かなのだろう。
しかし、村の領地であろうに場所に入った瞬間冷え切った北からの風が止んだ。
結界が張られている。霊力の高い雨露はすんなりと入れたが、いくら弱い結界とて、霊力を持たない翡翠は、結界を破り無理に入ってくるという手段しかない。
一度雨露は村を見渡した。嫌な気が充満しており、妖怪が張った結界ということがすぐに解る。
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