其ノ十一
 

 さえずる小鳥の声。冷たい風が吹き荒れる。花が一輪も咲いていない黄土色の地面がなんだか寂しげに見えた。
 もう、しばらく暖かい時期に咲く色とりどりの花を見ていない。
 二人はたわいもない会話をしながら歩いていた。
 今は好きな季節を話している。
 何かに役立つとは思えないが、お互いを知るためにはたわいない話しは重要だ。

「翡翠はどの季節が好き?」

 翡翠は少し考えてから答えてくれた。

「夏。冬は寒すぎる」

 翡翠には、正直言えば好きな季節は無い。だが、冬は寒いからこの選択肢はいただけない。春も秋もあったが、夏の日向ぼっこは特に気持ちが良い。その事から夏という選択肢が残った。
 そして答えるときに言葉を少し濁したのは寒がりだということがばれないようにするためだったりもする。

「寒いの苦手って事?」

 今隠そうと思っていたことをふいにつかれ、びっくりした翡翠とは対照的に、雨露はにこにこと笑っている。
 その笑みに負け、翡翠は素直に言うことにした。

「う……、かなり。実は今も寒すぎて辛い」

 翡翠も返答しながら何時の間にか笑っている。
 二人の間には自然と笑みが出来ている。

「雨露の好きな季節はなんだ?」
「僕は春、かな……。桜が綺麗だしね。冬は特に苦手。良い思い出が見当たらないし」

 そう。冬は嫌い。実は自分の誕生日があるのだが、僕からしたら誕生日でも何でもない。たった一人の母上の命日だ。父上が無くなったのも冬。白い雪が真っ赤に染まっていくのを鮮明に覚えている。
 こんな事を思い出しても気が動転しないだなんて。まあ、きっとただの昔話として片付けてしまっているのかもしれないけど。
 そんな事を少し考え、雨露は翡翠との会話に戻る。



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