其ノ九
 

「ねえ翡翠。先ず最初は何処に行く? 今僕達は央国に居る訳だけど…」
「東頭」

 翡翠に聞かなきゃ良かった。雨露は素直にそう思う。

「あのさ、翡翠。途中に国がいくつあると思ってるの? 確かに花街はあるさ。どうせ目当てはそこでしょ? 普通さ、隣にある国にするからね?」

 そう言った瞬間、翡翠の顔が曇る。
 まあ、雨露は例外だが、年頃の男児からすれば花街は夢のような場所だろう。

「苺、というものがあるから一度東頭には行ってみたかったんだ。それより雨露。はなまち……? ってなんだ?」
「は!?」

 雨露は驚いた。それは驚くだろう。今のご時世、花街を知らないのは童くらいのものだからだ。田舎に居る者でも風の噂やらで知っている。

「翡翠、花街って言うのは……。いいや。うん。知らなくていいよ」
「いや、そこまで言われたら誰だって気になるだろ……。で、はなまちって何だ?」
「だから、知らなくても――」
「はいよ。みたらし団子お待たせ。おやおや。あんた、花街を知らないのかい?」

 厄介な事になった。雨露はそう思いながらもみたらし団子を受け取り頬張る。
 口の中に甘い味が広がりふわりと表情が緩んだ。
 その間も翡翠と女店主は喋っている。

「ああ、知らん」
「今時珍しいねえ。花の街って書いて、花街って言ってね。別嬪さんがたくさんいる場所だよ。まあそれなりにお金が無いとだけどねえ。今は【夕霧】っていう人の話で持ちきりらしいよ。詳しいことは実際行って知りなね」

 翡翠はちらりと雨露を見た。
 その視線に気づいたのか否か、雨露はみたらし団子を皿に置き、飲み込んでから発言する。



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