其ノ八
翡翠は少し下を向き顎に手を当て考えていたが、思い出したのかハッとして顔を上げた。
「確か【緑龍】の鱗がどうとか、と銀露が言っていたな……。鞘に巻き付けた紐は髭だとかなんとか…」
雨露は素直に驚いた。何百年か前、緑龍が山で暴れ狂いある者の手によって倒されていたという昔話を雨露は父から聞いたことがあったからだ。
幼い時に聞いたものだった為、正確には思い出せないのだが。今はもう語り継がれてはいないので、確かめる術は少ないだろう。
「ねえ翡翠。それは誰かからの貰い物? さっき言ってた銀露って人から貰ったの? まだ生きてる人?」
彼は容赦なく翡翠に問う。
初対面の者にここまでたくさん質問をしたのは初めてかもしれない。
「ああ、そうだが……。あと今も生きてるぞ。鬱陶しいくらいだ。 だが、それがどうした?」
銀露という者が緑龍を狩ったのだろうか。だが緑龍が倒されたのは何百年か前……。
頭が混乱してくる。
「あああああ……!! 面倒臭いなあ! ねえ翡翠。銀露ってまさかようむぐっ!」
言い切る前に雨露は団子を口に突っ込まれた。
こうまでするのだ。銀露という者の正体を周りの者に知られてはまずいのだろう。
だが、雨露はそれ所ではなかった。
好物であるみたらし団子に夢中だ。
程良いたれの甘味が口に広がり、さっきまで気になっていた事が吹っ飛ぶ。
まあ、これから旅をすればお互いの過去について喋れるときが来るだろう。その時にまた銀露のことを聞こう。
雨露は口の中がなくなってから店の者にみたらし団子を新しく二皿頼む。
それから翡翠にこの後、何処に行くのかという話を持ち掛けた。
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