短編集


嫌いな物は



この国が怖い。人が怖い。血が怖い。

――自分が怖い。

いつ、日陰になるか解らない。大量の血だなんて言ったって、何処からが大量なのかだなんて、そんなの知らない。一瞬で見分けられるかなんて言われたら無理って答えるし、そもそも見て判断なんてしてたら日陰になってしまう。
人格が変わる瞬間がこの世で二番目に嫌い。自分の身体なのに自分で動かせなくなる。無理矢理思考が閉じ込められてしまう。
雁字搦めに縛られて、鉄出できた箱に閉じ込められたように真っ暗になる。自分の意志で呼吸も出来なくなって、そのうち抵抗する事も諦める。
気付けば息が苦しくて、服も顔も髪も、何もかもが真っ赤に染まっているんだ。周りも真っ赤で、それを見る度に声が枯れるまで叫んで叫んで叫んで、思考が停止するまでどうしようどうしようって考えて、出る物が無くなるまで吐き続ける。
何をしていたのかも解らない身体はボロボロで、傷だらけで。でもそれ以上に、周りに居る人はボロボロで、息もしてない。
何人この手で殺してきたのか解らない恐怖にいつも縛られているんだ。
洗っても洗っても血の色も、臭いも、感覚も消えなくて、血が滲むまで洗い続けた事もあった。不思議な事に、自分の血を見ても日陰になることは無いらしい。
今も自分の身体が何をしているか解らない。何を言われているのかも解らない。でも、何故だか悲鳴だけは聞こえる。
泣き叫んで泣き叫んで、悲鳴を上げて息絶える音だけは聞こえるんだ。
気持ち悪いくらいに鮮明に。脳に直接響いているように。
きっと日陰は気持ちいいとでも思っているのだろう。本当に気味が悪い。
そして、最後に聞こえるのは自分の甲高い笑い声。いや、奇声。
本当に嫌になる。
この世で一番嫌いなもの。それは、自分自身。



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