短編集


イツカハ散ルナラバ



日が昇るのが嫌いになったのは何時からだろう。いや、こんな世が嫌いになったのはいつからだろう。
此処に来た当初は嫌すぎて嫌すぎて嫌すぎて、毎日のように泣いていた事があった。今では嫌な思い出だが。
逃げようとしたこともあった。だが、外に出たい夢なんて叶わず、花街の無駄にでかい朱色の門をくぐる前に捕まった。勿論そんな馬鹿な事をして許される筈もなく、拷問のような罰を受けた。泣き叫んでも何をしても。吐こうが喚こうが止めては貰えない地獄の日々。
こんな事があり、外に出る夢だなんてこれっぽっちも残っちゃい無い。
痛い目をみるのが嫌ってのもあるが、それ以前に何処に帰ればいいというのだ。所詮売られた身。家に帰ったところでまた売られるのが落ちだ。帰る場所何て何処にも無い。
開けた窓から櫻の花びらが入ってきた。
もう春なのだ。
「ああ……。春、か」
口にして改めて実感する。
花見だ何だで騒がしい人々。そんな人々を見ているとつくづく思う。
呑気でいいね、と。
此方人等花見どころではない。花見は出来る。そりゃあ此の花街にも桜は咲いているのだ、出来ないことは無い。だが、わいわいがやがや酒のんで団子食って気楽に喋ってだなんて事は出来やしない。それなら有効的に時間を使う方がいいだろう。客が行きたいと言うのならば話は別だが。
考えることが無くなり、ふと窓の外を眺める。遠くの桜が目に入り、ふと目を細めれば、前の客の言葉を思い出した。
「お前は美しい華のようだ」
そんなような事を言われた記憶がある。何奴だったかは忘れたが。
「華……、ねえ……。ははっ……」
華。その言葉に可笑しくなって笑う。
そうかそうか。華か。
華ならばいつかは散る。それと同じように人の命もいつかは散る。
だけどな。それじゃあ身体を売ってる俺からしたら美しいとは言えない。だって年をとりゃあ捨てられちまうだろう?
華と言うならば直ぐにでも手折ってくれ。枯れ、捨てられてしまう前に。ぽきりと根本から。
微塵にもそう願う俺は馬鹿だろうか。



あんなに自由な華と、自分の足で遠くに行けぬ俺を、一緒にしてはいけないんだよ――



戻ル

― 以下広告 ―
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -