Egoistic

[妻子ある男性と彼に執着する女性の背徳的な恋・3]

 得意先への重大トラブルを起こし、遅くまでその対処に追われた。

 上司には頭ごなしに罵倒され、得意先からは、上司ほど怒鳴られなかったが、精神的な攻撃を受けた。

 終わった頃には疲れ果てていた。

 家では妻が待っている。
 しかし、こんな姿を見せたくはない。

 俺は無意識に、ジャケットの内ポケットから携帯を取り出していた。
 そして、躊躇いもせず電話をかける。

 一回、二回……コール音が鳴り続き、四度目で音が途切れた。

『どうしたの?』

 挨拶もそこそこに、相手は訊ねてくる。

 柔らかなその声に、俺の心にじんわりと温かなものが広がった。

「これから行ってもいいか?」

 俺も挨拶を省き、要件を告げる。

 電話の向こうの彼女が息を飲む。
 多分、返事を躊躇しているのだろう。

『――いいわ』

 しばらくの間を置き、彼女から返答が戻ってきた。

「すぐ行くよ」

 俺はそう言って、一度通話を切った。

 ◆◇◆◇

 彼女のアパートに着いた。
 俺がインターホンのボタンを押すと、ほどなくして鍵の解除される音が聴こえた。

 彼女の姿を目の当たりにした瞬間、俺の中で緊張の糸が切れた。
 そのまま小さな肩に額を載せると、彼女は俺の背中に両腕を回してきた。

 俺は後ろ手でドアを閉め、そのまま彼女を抱き締め返した。

 力を入れるとすぐにでも壊れてしまいそうだ。
 けれど、彼女をボロボロにしてしまいたいほど、俺は今、彼女を独り占めしたかった。

 この時、俺の中では妻の存在など綺麗に消え去っていた。

「――すぐに帰るの?」

 それまで黙って俺を抱き締めていた彼女が、くぐもった声で訊ねてきた。

「――いや」

 俺は彼女の髪に顔を埋めながら続けた。

「今夜は帰らないよ。ずっと、君と一緒にいたい……」

「――酷いわね。奥さんを蔑ろにする気?」

 俺は肯定も否定もしなかった。

 蔑ろにする――確かにそうだ。

 妻に心配をかけたくない、などというのは俺のエゴに過ぎないのだから。

 けれど、エゴだろうと何だろうと、俺が本音を漏らせるのは彼女しかいない。
 弱い妻には、今の俺を受け止めるだけの力はないだろう。

 それからは、無我夢中で彼女にのめり込んだ。

 ベッドに行くのももどかしく、彼女を滅茶苦茶に壊した。

 そんな俺を、彼女は静かに、時に激しく受け止める。

 自分が、まるで獰猛な獣にでも変貌したようだ、と彼女を抱き続けながら不意に思った。



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