隠し味は愛?



「なあなあ白石ー聞いてぇな」

「ん?」

椅子に無駄に優雅に座りながら毒草全集をめくる白石の前に立つ。
目線だけあげて私を見ると直ぐさま毒草全集に視線を戻した。扱いが雑や。

「隣の組のマツコおるやん?」

「ああ…あの毒舌で有名な」

マツコはあの芸能人のマツコと丸さや言動の悪さも似てるってつけられたあだ名であって本名ではない。
本名は正直忘れるくらいにごく普通だった気がする、なんやったっけ。鈴木?高橋?佐藤?

「ほんで?マツコがどないしてん」

「あ、せやった。さっきぶつかったらマツコにすごいボロクソに言われたんやけど。うっかり涙目んなったわ」

「そらご愁傷様やな」

「わざとじゃあらへんしちゃんと謝ったんやで?酷いわー」

「はいはいよしよし」

白石は笑いながら包帯を巻いた手で撫でてくれる。わしわしと髪がぐしゃぐしゃになるような撫で方や。やっぱり扱いが雑。

「財前の毒舌で慣れてるから平気やと思っとったんやけど、全然ちゃうかったわ」

「そら無理やろ」

「え?なんで?」










「なんだかんだ言って財前の毒舌には愛があるからなぁ、って白石が言うとったんやで」財前との帰り道、今朝の出来事を話すと財前は心底不愉快そうに眉をひそめた。

「愛とかきしょいっすわ」

「愛あらへんの?」

「あらへん」

「ちぇー」

なんだかんだと言って財前は私の彼氏だし、実際のところ愛はあるんだろうけどそんなことを言ってくれるはずもないので大袈裟に拗ねたふりをしてみせた。

「しかし、何で最初に俺に言わへんのですか」

「何を?」

「暴言吐かれたって。普通彼氏に先に言うもんちゃいますの。俺紘先輩の彼氏ちゃうんか」

「え、財前もしかしてヤキモチ」

「ちゃいます」

「ヤキモチやーん!なんや光くんかっわえー!」

「違ういうてるやろ。光くんてなんなんキモいわ」

「ふへへ」

「笑うな」

「うへへ」

「口塞ぐぞ」

「キスでならええよ」

「アホか。するかボケ」

「…うーん」

「なんや」

「やっぱり財前の毒舌なら平気やなと思って」

「…そんなん、当たり前やろ」

「え、」

「結局俺は紘先輩の彼氏やからな」









隠し味は愛?

「やっぱり財前、私のことめっちゃ好きやんなぁ」

「はぁ?何言うてんねん」

「愛されてんなぁ私」

「…勝手にそう思っとけ」

「おん、そうする!ふへへ、」

ちゅっ

「へ、」

「…アホ面や」

「ざ、ざ、財前のアホー!」

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