健全なる男子中学生



「紘先輩!こっちこっちー!」

昨日流れで浴衣を選びに来た私達は、散々試着をした後で黄色に水色で朝顔が描いてある可愛らしい浴衣にした。
ブン太のイチ押しと、私の好みが一致した結果だ。
幸村と一緒に会計を済ますと離れた所から赤也が声をかけてくる。
声のする方に顔を向けると赤也とブン太がぶんぶんと手を振っていた。

「あいつらまた騒ぎよって…」

「あ、真田!」

真田がズカズカと歩いて行く。
でも、赤也やブン太がいる場所は…

「真田!そっち水着売り場!」

私がそう叫んだ途端に真田の動きがピタリと止まる。
硬直している真田に駆け寄って顔をのぞき込むと顔も硬直していた。

「さ、真田?」

目の前で手をぶんぶん振っても無反応。

「あーもー紘先輩早く来てくださいってば!」

「きゃあっ!?」

赤也が痺れを切らしたのか私を引っ張りに来た。
ぐいぐいと無理やりに引っ張られて水着売り場へと連れてかれる。
赤くなった腕をさすってると目の前に何かがずいっと差し出された。

「紘先輩!これ着てください!」

「えっ?ええっ?」

出されたのは黄色に緑のラインの入ったビキニだった。しかも、紐パン…。
ハイビスカスが描いてあったりリボンの先にビーズがついていたりと可愛いけど紐のビキニがかなり心許ない。
仁王や赤也なんかにイタズラで紐を引っ張られたら一巻の終わりだしなー。

「タンクトップとズボンもついてるんスよ!」

ニコニコ笑いながら赤也がセットのタンクトップとショートパンツを差し出す。
確かにそれ着ちゃえばビキニだとはあまりわからないけど…うーん

「紘ー、こっちにしろぃ」

ブン太がちょいちょいと手招きをする。
赤也と首を傾げながら向かうとブン太がかけてあった一着の水着を取って私に渡す。

「これのが紘に似合う。」

ガムをくちゃくちゃと噛みながら似合うと言いきった水着を見たらやっぱり赤也と同じ紐ビキニだった…

「ブン太…あんたも紐ビキニなの…」

「何言ってんだよ、紐ビキニは男のロマンだろぃ」

「そうッスよね丸井先輩!簡単にほどけそうなとことかたまんないッスよ!」

きゃいきゃいとまるで恋バナをしてる時の女子みたいに騒ぐ二人を尻目に私は渡された水着を見ていた。
オレンジを基調としたビタミンカラーで赤也が渡したのと同じ4点セット。
色は明るくて可愛いけどビキニなんか着れないわー無理無理!
溜め息をつきながらこっそりと元に戻す。

「紘ーこれなんかどうじゃ」

トントンと肩を指でつつかれて、振り返ると仁王に手首を掴まれて引き寄せられる。
仁王が指差した水着は茶色や緑などのアースカラーのロングパレオ付きのビキニ。
首の後ろで結ぶホルターネックタイプだった。

「えー大人っぽくない?」

「そうかの?」

「うん、パレオ付きはいいけどあれ大人っぽいよー。私中学生ですよー」

「…俺も中学生じゃが。紘なら着こなせるぜよ」

「ちょっと仁王…」

仁王が頭をわしわしと撫でてくる。忘れていたが片手が掴まれたままだった。

「…仁王って頭撫でるの好き?」

「ん、紘だけじゃよ?」

「ほんとかなー」

「ほんとじゃ」

「紘にはあっちの色のが似合うと思うぞ」

「うわっ!?」

手を掴まれたままの向き合っていた私と仁王の間に柳がにょきっと出て来てびっくりした。
いやほんとににょきっと。生えたみたいに。
心臓に悪い!
驚いたのか仁王の手は離されていて、仁王はちょっと不満そうに首の後ろに手を当てて柳を見ていた。

「参謀、邪魔するんじゃなか」

「そういうわけにもいかなくてな。ほら紘、あっちの色はどうだ」

柳は私の肩に手を置いて水着を指す。
仁王のと同じデザインだけど柳のは緑系の色でまとめられていた。

「色は綺麗だと思うけどデザインが大人っぽすぎるってー。浴衣の時といい二人の選ぶのは大人っぽいんだって!」

「そうだね、紘にはこっちがいいんじゃないかな」

「幸村!」

柳の手を落とすように幸村が背後から出て来る。
だから何でうちの部員はこうも唐突に現れるのかなあもう!
振り返ったら幸村の後ろにむっつりとした顔で居心地の悪そうな真田がいて、幸村が連れてきてくれたのかなあとぼんやり思った。

「紘」

「わっはい!?」

幸村に両肩を掴まれて真面目な顔で見つめられる。
何だかドキドキしながら幸村の言葉を待っていると幸村が目を伏せてすっと何かを差し出してきた。「何も言わず、これを着てくれないか」

差し出されたのは白のレースのついたワンピース付きの水着。

「うんっ…って着るかぁぁぁい!」

突っ込みと同時に肩に乗ってた手を叩き落とそう…として避けられた。こんにゃろう!

「ふふ…いいノリ突っ込みだったね」

「お褒めいただき光栄ですねー」

「ふふ…全然嬉しそうじゃないね」

幸村には口ではかないっこないので(いや力でも何でも無理だけど)
潔く諦めて真田の所に向かおうとしたら幸村に首根っこを掴まれた。

「ギャー!ちょっといたっ痛いわよ幸村っ」

「だめだよ紘、行くならあっちの試着室行かなきゃ」

「ってうおおおい!着ないって言ってるじゃん!」

「…何で?」

首根っこを離した幸村がちょっと寂しそうに俯いて聞いてくるけど、私その手には負けないんだからね!

「幸村の好きなデザインは私には似合わないの!こんな女の子らしいの似合いま
せん!白とかもってのほか!」

「そんなことないよ。きっと似合うよ紘」

「大体幸村は何でこれがいいの?」

「デザインが女の子らしくて可愛いし、白って下着みたいでそそるじゃないか。水に濡れたら透けちゃいそうなとことか」

「水着だから透けないし!って言うか動機が不純!よって却下!!」

「ええー…」

「ええー…じゃないの!」

「では紘さん、こちらは如何ですか?」

「柳生」

柳生が持ってきたのは紺地に白の水玉のワンピース水着。
まあ今時ワンピース水着はどうかと思うけど露出少な目で洋服みたいで可愛い。
思わず鏡の前で当ててみると柳生が満足げに頷いた。

「やはりよくお似合いです」

「うんこれ可愛いー」

「えー!紘先輩やっぱり今はビキニッスよ!?それじゃ露出少ないッスダメッス!」

「赤也のダメ出しはいらないでーす」

「紐ビキニ以外の水着にしたら脱がすぜ」

「ちょっと丸井不穏なこと言わないでよ!」

「やっぱりロングパレオじゃろー」

「ああ、パレオから脚が覗くのが醍醐味だぞ」

「まだ諦めてなかったの!?しかも柳何言ってんの!?」

「紘、それじゃ透けないし下着っぽくないから面白くないよ」

「だから水着透けねぇし!下着っぽいのなんて絶対着るもんか!」

「俺は紘にはこれがいいと思うぜ」

「ジャッカル今まで何してたの!?つか真っ赤なビキニとか却下ね!隠すとこ少なすぎだろそれ!!」

「み…」

「ん?真田?」

「水着などたるんどるっ!!!!」

今まで口を開かずにいた真田が口を開いた途端に怒号が飛び出して、私達は耳を押さえざるを得なかった。
店員さんの冷たい目に晒されて私達は慌てて水着を片して真田を連れてデパートから逃げ出した。

全速力でデパートから出て、真田を除く全員がもうこのデパートには来れないな…とデパートを仰ぎ見ながら思った。










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