真夜中の攻防



「きゃああああっ」

その日は僕とミシャ以外は任務に行っていて、夜も遅かったのでそれぞれの部屋に戻っていた。寝る支度も終わりベッドに潜ったところでミシャの悲鳴が聞こえて飛び起きた。

寝巻に裸足のまま部屋を飛び出してミシャの部屋をノックもなしに開ける。

「どうしたのっ!?」

バン、と戸を開けた途端にベッドの上で涙目になっていたミシャが振り返る。

「ユーリスっ!」

そのままだだだっと走ってきたと思ったら僕の首にがっしりと腕を回して抱き着いた。胸元にふにゃんと柔らかいものが当たる。って、え!?

「うわっちょっ何すんの離してよ!」

「いやいやいやっ」

「ちょっ…ミシャっ」

離すどころかミシャは嫌々と首を振ってぎゅうぎゅうと抱き着いてくる。彼女も寝る準備をしていたのでネグリジェ姿でどうやら下着は…つけていないらしく。それが僕に押し付けられていた。いやだからまずいって!

「ミシャ!一体どうしたんだよ」

「あ…あれが…」

「あれ?」

「Gが…」

震える手でミシャが指差したのは黒光りしたアレ、だった。
ああなるほど。

「わかった、今退治するから離れてよ」

「やだっ」

「ずっとこのままにしとくつもり?」

「だってアレ1匹いたら30匹って言うしっ」

「それが?」

「ユーリスがやっつけてる間に来たらどうするのっ」

「逃げれば?」

「無理無理っ」

そう言ってしがみついたままのミシャを引きはがしてアレを魔法で消し炭にしてやる。ふぁと欠伸をして僕は踵を返した。

「はぁ、なら僕は部屋に戻るよ」

「…待って!」

がしっとミシャが僕の服の裾を掴む。

「ちょっと、服伸びる」

「ユーリス、一緒に寝てよ」

「…はぁ!?何言ってるの」

「だって怖くて一人じゃ寝れないもん!」

「もう退治しただろ」

「だって仲間がいるかも!お願い!そっちで眠らせてっ」

「…はぁ好きにすれば」

僕はもうめんどくさくなってそう答えると部屋を出る。暗い廊下を突き進んで自分たちの部屋に戻ると当然のようにミシャもついて来ていた。

「その辺のベッド勝手に使いなよ、じゃおやすみ」

ひらひらと手を振ってベッドに潜り込もうとしたら何を思ったのかミシャが同じようにベッドに潜り込んできた。

「ちょっと!何してんの」

「勝手にしろって言ったから勝手にユーリスと寝ることにした」

「僕は許可してないよ!」

「許可いらない!」

「ちょっと!」

勝手に持ってきた枕を並べて横に寝そべるミシャ。なんかもう何言っても無駄なんだろうと諦めの気持ちがわいてきた。

はあ、と何度めかわからないため息をついてベッドに横になると何を思ったかミシャが体を寄せてきた。僕の腰に腕を回して後ろから抱き着かれる体勢だ。ふにゃん、と背中に柔らかいものが当たる。

「ちょっ…と離れてよ、寝づらい」

「ユーリスの匂い、安心するー…」

「ちょっとミシャ!」

「…」

「…ミシャ?」

「…すー」

「もう寝たのかよ、信じられない…」

ぎゅうっと抱き着いたまま背後からは規則的な寝息しか聞こえなくて僕は愕然とする。
どれだけ意識されてないんだよ、僕。
無防備にも程がある。

「あんまり無防備で、襲われても知らないから」

首だけ振り返って眠りに落ちた彼女に囁く。
額に一瞬だけキスをして、僕も目をつぶった。



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