テーブルの下の秘密
「ユーリス何か不機嫌じゃない?」
「…別に」
そう?前の席に座ったエルザが首を傾げる。別に機嫌が悪いわけじゃない、本当に。
ただ…今朝、
「あ…」
「あっユーリス!おはよう!」
「え?」
「じゃあね!」
昨日僕らはアルガナンブリッジで付き合うことになったはずだ。酒場までの帰り道、ミシャはやけに照れて、僕振られたの?っていうくらい距離を開けて歩かれた。
なのに今朝になってみればそんなことなかったかのような普通っぷり。
こっちが戸惑うくらいだ。
まさかあれ夢?僕が都合よく作り出した幻?
僕が頭を悩ませているとエルザがにこにこしながら話し掛けてきた。
「ユーリス、よかったなミシャと仲直り出来て」
「えっ?…ああ、うん」
どうやら喧嘩したのは事実で仲直りしたのも事実らしい。
じゃあどこから?どこからが僕が都合よく作り出した幻なんだろう。
と、その時カランカランと音を立てて酒場のドアが開いた。
どうやらセイレンとマナミアだ。
「たっだいまー!親父ー酒くれっ」
「ただいま戻りましたわ。アリエルさん、とりあえずお食事を10人前程いただけます?」
相変わらずの二人はクォークとジャッカルの座ってたテーブルにつくといつものように注文をしだした。アリエルは苦笑いだ。
「あれ?ミシャは?」
「んー?あたしらしらねーぞ」
「ええ、今朝からお会いしてませんわ」
「もう遅いのに…大丈夫かな」
そうエルザが呟いたとほぼ同時に酒場のドアが開く。ただいま、と帰ってきたのはミシャだった。
「ミシャ!おかえり!」
そうエルザが言うとみんなもおかえりー!と次々声をかける。もう一度ただいま、と言ったミシャにエルザがこっち座りなよ、と促した。
僕らのテーブルは僕の隣とエルザの隣が空いている。
「うん」
そういってミシャが腰を下ろしたのは僕の隣だった。
「ユーリスただいま」
「…おかえり」
僕が顔を向けるとすぐに逸らされた。なんだよ、やっぱり昨日のは夢か、と思った時、ミシャの頬がほんの少し赤いことに気が付いた。
…あれ?
僕はミシャの脚の上に置かれていた手をみんなから見えないようにテーブルの下でそっと繋いでみた。
「…っ!」
びくり、とミシャの肩が一瞬震えて一気に頬が赤くなる。
ちらっと僕を見た顔はうらみがましそうな、それでいて照れているような表情だった。
「っ!」
今度は僕がびっくりする番だった。ミシャが手を握ってきたのだ。真っ赤な顔を逸らして。
…ああなんだ、照れてただけだったんだ。
こっそりと繋がれた手に力を込めて僕は口元を緩めた。
「あれ、ユーリスなんかうれしそうじゃない?」
「…別に、そんなことないよ」
「ミシャなんか顔赤くない?」
「あっちょちょっと熱いかなーってえへへへへ!酔ったかなっ」
「それ、ココナッツミルクじゃなかったっけ」
「…」
「…バカ」
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