ある晴れた日
「よし、綺麗になった」
今日の任務は私とユーリスが居残り組。暇なので2階で武器を磨いていた。
「いい天気みたいだなぁ」
窓から差し込む日差しが明るい。私は伸びをして部屋を出た。
せっかくだから散歩にでも行こうかな。
とんとん、と階段を下りて行くと下に居たユーリスと目が合った。
「武器の手入れは終わったの?」
「ん、うん」
ユーリスは本を読んでたのか飲み物片手に分厚い本をめくっていた。
そんなユーリスの横をすり抜けて私は酒場の出口まで歩く。
「ミシャどっか行くの?」
「うん、お腹すいたし、天気も良さそうだから散歩しようかなって」
「ふーんじゃあ僕も行こうかな」
「え?」
「なに、ダメなの?」
「ううんそうじゃないけど」
「じゃあ早く行こう。僕もお腹すいてたんだ」
「う、うん」
ごく自然にユーリスが私の手を取って酒場を出る。カランと言う音と共に目の前が一気に明るくなった。
「んっ…眩しい」
「それで?どこ行くの?」
「あ、城門前のカフェ行こうかなって思ってたんだけど」
「わかった、じゃあ行こう」
ユーリスはそれだけ行って私の手を引く。何で手を繋いできたんだろうとか、そんなにいないけど知り合いに見られたらどうしようとか思ったけど何だか手を離す気にはなれなかった。
「美味しかったね」
「…うん、そうだね」
ご飯を食べ終わって席を立ったと同時にユーリスが手を繋ぐ。まるでそれが自然なことみたいに。
「次は?どこか行くところ決めてるの?」
「あ、ううん…ただ散歩しようって思ってただけだから」
「そう、じゃあ適当に歩こうか」
そう言いながらユーリスは歩き出す。一歩遅れて着いていく。
川沿いを歩いてみたりマルシェを冷やかしてみたり、闘技場を覗いて見たりして一日ぶらぶらしていた。
「はい」
「あ、ありがとう。お金…」
「別にいいよ」
喉が渇いたねと言ったらここで待っててとユーリスが噴水のふちに私を腰掛けさせてどこかへ行ってしまった。
と思ったらジェラートを持って戻ってきて私に一つを渡してくれた。
すぐ隣に座ったユーリスと服越しに腕が当たって、なんか気恥ずかしくて私は思わず一歩横にずれた。
「!」
一歩ずれた途端に同じだけユーリスが詰めてくる。置いていた手の上にそっとユーリスの手が触れた。
「っ…」
ユーリスの手が動いて指と指を絡める。
どういうつもりなんだろう、ドキドキし過ぎてジェラートが食べられない。
「ミシャ、ジェラート溶けるよ」
「あ、うん」
「口の端についてる」
「え、えっ」
「ここだよ」
とっくにジェラートを食べ終わったユーリスが指で口の端についていたジェラートを拭う。
「こっちも美味しいね」
「ちょっ、ユーリス!」
ぺろっと指に付いたジェラートを舐める。
一体何してるの!ていうか一体どうしたの!
私がジェラートを食べ終わったのを見計らって、ユーリスが手を引く。
空はもうオレンジ色になっていて、そろそろ夜が来るのを教えていた。
「そろそろ帰ろうか」
「う、うん…」
酒場への帰り道をてくてく歩きながらなんとなく黙ってしまう。繋がれたままの手は緊張してじっとりと汗をかいている…気がする。
繋いでて…嫌じゃないのかな。
「ね、ねぇユーリス」
「なに?」
「あの、手、」
「手?」
「私手、汗かいてると思うんだけど…その、嫌じゃないの」
「なんだそんなの今更。ミシャ最初繋いだ時から手汗かいてたよ」
「えっ!?」
「それに僕から繋いでるのに嫌なわけないだろ。少しは考えたら?」
「う…そ、それはそうだけど」
「ミシャこそ嫌がるかと思ったら嫌がらなかったね。…思ったより望みはあるってことかな」
「え?なに?よく聞こえなかった」
「なんでもないよ。ほら、帰ろう。もう日が沈む」
「あ、うん」
ユーリスが何で手を繋いできたのか、なんとなくわかるようでまだわかっちゃいけないようなそんな気持ち。
自分の気持ちにもユーリスの気持ちにも、もう少しだけ気付かないふりをしていよう。
ユーリスのことが今までと違って見えた、そんなある晴れた日。
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