VERS TOI-君のもとへ-



あの後ユーリスにみんながいると言う酒場に連れていって貰った。

みんな信じられないと言った顔で驚いていたが、セイレンは大泣きして抱き着いて、マナミアは手を取って喜んで、クォークは前と変わらず髪を撫で、エルザとジャッカルは肩を叩いて無事を喜んでくれた。
私が何かを言う前におかえり、とクォークがドッグタグを差し出してくれて私はついに泣き出してしまった。
そして気付けばユーリスは酒場から姿を消していた。



「ミシャ」

今日は宴会だー!とセイレンの号令で始まったどんちゃん騒ぎで私は酔わないように少しずつお酒を口にしていた。
そんな時エルザがジョッキを持って隣に座る。声をかけてきたのは彼だった。

「エルザ」

「ユーリスと話した?」

「え、ううん。ここに来る時も相変わらず無口だったし」

「今2階に居たよ、話して来てやってくれないかな。素っ気ない態度とってるけどあれでかなりミシャのこと心配してたから」
その言葉に小刻みに震えていたユーリスを思い出す。半年程一緒にいたけどあんな態度、初めて見た。

「うんわかった私ユーリスのところ行ってくるね」

「俺達の部屋は階段上がって右だから」

「わかった」

ジョッキを置いて階段を上がる。右側にはドアが一つしかなく、少し躊躇ったけどとりあえずノックをしてみた。…反応はない。
そっとドアを開けるとベッドに腰掛けたユーリスがいた。
ドアを閉めたら下の喧騒が嘘みたいにしんとする。一歩踏み出す度に木の軋む音が鼓膜を揺らした。

「…なに?」

ユーリスが唐突に口を開いた。その視線は私を見てはおらずどこか遠くの壁を見てるようだった。

「あ、いや、あんまり話してなかったから…」

「…何か話すことなんてあった?」

一緒にいた時も思ってたけど相変わらず、生意気。さっき震えてたのは夢だったんじゃないかと思う。

「何か怒ってる?」

「…別に、怒ってないよ」

「あ、そう…」

怒ってなくてその態度ならさすがに心が折れる。ごめんエルザ、私にはユーリスと話すの無理みたい。
心の中でエルザに謝って私は踵を返そうとした。

「待ちなよ」

後ろを向いた私の手をユーリスが掴む。首だけで振り向けばベッドに腰掛けたまま話をしにきたんじゃなかったの、と言った。話ないって言ったのユーリスなのに。
私が何も言えずにいると痺れを切らしたように掴んだままの手をユーリスが引っ張った。
体のバランスが崩れてユーリスの腕の中に倒れ込む。ぎゅっと背中に腕が回った。

「えっ…あの、ユーリス?」

「…髪伸びたね」

「え、う、うん」

「顔もなんか違う人みたいだ」

「そ、そう?ユーリスこそ背伸びたんじゃない」

「まぁ成長期だからね」

抱きしめられたまま話されて心臓が早鐘を打つ。
今までこんな距離で話したことなんてない。ただの傭兵仲間だったはずなのにこの状況は何なんだろう。耳に直接声が響いて落ち着かない。

「あ、あのユーリス?そろそろ離し…」

「やだ」

「ええっ」

「やだ、もう、どっか行ったりしたら許さない」

ぎゅっと腕の力が強くなる。体が更に密着して心臓はこれ以上ないくらいにフルスピードだ。

「し、心配かけてごめんね?これからはずっと一緒だから、ね?」

「…うん」

「もうみんなから離れたりしないからさ、だからそろそろ離して…」

「……鈍感」

「え?ひゃっ」

ユーリスがぼそっと呟いたのを聞き返したらぺろっと耳を舐められた。

「ちょ、ちょっとユーリス!」

擦り抜けるように腕から解放されていつの間にかユーリスは扉の前。舐められた耳を押さえながら呼び止めたらにやっと笑って顔真っ赤と言って部屋を出ていった。

「相変わらず生意気なんだから…」

その生意気さ加減にも、急な強引さにもドキドキしたのはまだ内緒。




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