VERS LE JOUR-夜明け前に-
あの日から一ヶ月が経とうとしていた。
クォーク傭兵団は人数が少ない。だから怪我したセイレンも任務に参加することが度々あった。
その分傷の治りは遅くなる。
毎朝毎晩包帯を変えても、傷は直ぐには塞がらなかった。
「うん、完治!」
「よっしゃ!ありがとなミシャ!」
「どういたしまして」
セイレンは嬉しそうにエルザ達に絡みに行った。治って本当によかったと思える。
「ミシャ?」
「あ、クォーク」
「顔色が悪いが、大丈夫か」
「うん大丈夫、心配しないで」
「ならいいが、あまり無茶はするなよ」
「はーい」
クォークはくしゃっと私の頭を撫でてセイレン達の方に向かう。その後ろ姿を見ながら包帯類を鞄にしまった。
「何かあったの」
「え?」
人に絡まれるのが嫌いなユーリスはいつもみんなから離れたところにいた。今もセイレン達のところじゃなくて、私の後ろで切株に座って本を読んでいた。
「何もないけど、どうして?」
「何かへこんで見えたからさ、何かあったら言いなよ。みんな聞いてくれるだろうから」
「うん…そうだね。ありがとうユーリス」
「別に…お礼を言われるようなこと言ってないけど」
「いいの、言っておきたかったから」
「…変なの」
「ふふ、変でいいよ」
その日の火の番はセイレンだった。
うとうとと少し眠ってしまってるのか首が船を漕いでいる。
それを見て私はそっと体を起こした。
誰も起きてないのを確認して首からドッグタグを外し、畳んだ寝具の上に書き置きと一緒に置く。
最低限必要な荷物だけ掴んで私は立ち上がった。
空からは月も星も見え無くなっていた。夜明け前だ。
強くなりたい。みんなに守られないでいられるくらい、みんなを守れるくらい。
だから出ていく。大切だから強くなりに行く。
セイレンの怪我が治ったらってずっと決めていた。
真っ暗な森にひとりきり。
私はやけに重い一歩を踏み出した。
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