熱に浮かされて何の夢を見る
その日は珍しくミシャの姿を見なかった。城の図書室にも街を見回ってもいなくて、酒場に戻れば2階の隅で本を読んでいた。
「珍しいね、本読んでるの?」
「あ、ユーリス」
どこか遠くを見てるようなぼうっとした表情でミシャが返事をする。マナミアから借りたのか眼鏡をかけていてドキッとした。
「何、読んでるの」
「んー…街の子供が貸してくれたルリの街の歴史書みたいなやつ」
「へぇ」
それにしても反応が鈍い。暗いからよくわからないけど顔色が悪い気がする。
「ねぇちょっと…」
声をかけようとした瞬間、栞を挟んで本を閉じ、ミシャが立ち上がった。
「喉渇いたー」
どこかふらふらとしてるミシャが僕の横をすり抜ける。
何となく気になって追い掛けると階段を降りようとしたミシャの体が前に傾いた。
「危ないっ!」
倒れかけた体をギリギリキャッチする。
服越しにじんわりと伝わってくる熱が熱い。
やっぱりどこかおかしい気がする。
「ちょっとミシャ?」
「あー危なかったー…ありがとうユーリス」
「待って、ねえ熱あるんじゃないの」
「へ、」
進もうとするミシャの腕を掴んで壁に押し付けて額に額を当てた。…ああ、やっぱり熱い。
「やっぱり熱あるじゃないか!何で言わないんだよ」
「だいじょ…」
「大丈夫じゃないよ!ほら、マナミアに見てもらおう」
「や…やっ」
腕を引っ張ろうとしたら思いの外ミシャが拒む。
「ちょっと!服が伸びる…」
「お願い、みんなには言わないで…ちょっと、疲れただけだから…」
そう言いながらぐらりと体が傾く。慌てて受け止めるとぎゅうっと抱き着かれた。
「!ちょっ…」
「心配かけたくないの…休んだら、よくなるから」
言いながらミシャが抱き着く力が強くなる。
「わかった!わかったから…部屋に行こう」
「ん…ありがと…」
ミシャの体に腕を回して部屋に運ぶ。アクセサリーや上着を脱がしてベッドに横たわらせた。
「ん…」
熱が上がっている気がする。さっきより息が荒いし怠そうだ。
「ちょっと待ってて、水貰ってくるから」
「…やだ」
髪を撫でて席を外そうとした僕の服をミシャの手が掴む。
潤んだ目で僕の顔をじっと見つめてくる。
「いっちゃ…やだ、ユーリス…」
力の入っていない手で僕の服を掴んで、目から涙が零れた。
「…わかった、どこにも行かないから」
服を掴んでいる手をぽんぽんと叩いてやると安心したように服を離して手を繋いできた。僕の手と違って熱くて繋いだ先から手がじんわりしてくる。
「ユーリスの手、冷たい…」
繋いだ手を頬に擦り付けてくる。…こんな時に不謹慎なのはわかってるけどドキッとしてしまう。
空いてる手で頭を撫でてやるとへにゃりと笑った。
僕はミシャのベッドのふちに腰掛ける。
「ユーリス…?」
「ん…?」
「誰にも言わないでね…側に、居てね…」
「…うん」
そしてミシャはゆっくりと瞼を下ろす。
「おやすみミシャ、いい夢を」
柔らかい髪を梳いて僕はそっと口づけを落とした。
熱に浮かされて何の夢を見る
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