一方通行⇔一方通行
「ねえねえユーリス」
「何?」
「ちゅーして?」
ガタガタガタンッ
唐突にミシャがそんなことを言うものだから、僕は大袈裟な音を立てて酒場の椅子から落っこちてしまった。情けない、と言うか恥ずかしい。
ミシャが呑気に大丈夫?なんて聞いている。誰のせいだと思ってるのさ。
「いきなり何言ってるの?嫌だよ」
「えー」
「えーじゃないから!当たり前だろ!第一こんなところで…みんないるのに」
「二人きりならいいの?」
ガッタン!
今度はグラスを取り落としてしまった。その音を聞いてアリエルがやって来てふきんで拭いてくれた。情けない。飲んでたのが水でよかった。
このままじゃ落ち着いて居られないので僕は立ち上がって階段を上がる。
男部屋の戸を開けてベッドに座って漸く息を吐いた。
「ねえユーリス」
「うわあっ!」
ガンッ
いつの間についてきてたのか目の前にミシャの顔があってのけ反った。
その勢いでがっつり壁に頭をぶつけた。
ああ本当に今日は情けない。
「ゆ、ユーリス大丈夫!?」
ミシャが慌てたようにベッドに乗り上げて僕の頭を抱き寄せた。
「ちょ…ちょっと!」
顔に柔らかいものが当たって一気に顔に熱が集まる。当の本人は僕の頭を撫でることに集中してて全く気付いてくれない。脚の上に跨がられているから逃げることも出来ない。
ミシャがショートパンツでよかったよ…色んな意味で
「ちょっとこぶになってるみたいだけど大丈夫?」
「大丈夫!大丈夫だからもう…離れて!」
ぐいぐいと体を離すとミシャはすとんと僕の脚の上に座った。
何でそこに座るのさ!
「ユーリス顔真っ赤だよ?」
「赤くないよっ!」
「そう?」
きょとんとするミシャ。誰のせいだと思ってるんだよ!
「あ、」
「今度は何?」
「ユーリス、今二人きりだよ」
「!!」
「ね、ちゅーして?」
ミシャが僕を追い詰めるように近付いてくる。何で僕がこんなに拒んでいるかと言えば、僕とミシャが付き合っているわけじゃないからだ。
傭兵仲間だし、僕自身はミシャのことが好きだけどミシャの気持ちを僕は知らない。
「何でそんなにキスしたいのさっ!」
「だって…ユーリス結婚の約束したんでしょ」
「は?」
「お城の魔法使いの子が言ってた。お嫁さんになるーって」
「ああ、うんそんなこと約束したような気もするけど。でも大きくなったら忘れるでしょ」
「わかんないじゃん!」
「え?」
「私がずっとユーリスを好きみたいに、あの子もユーリスのことずっと好きかもしれないじゃん…」
「え、ミシャ今なんて…」
「ユーリスが好きなの。初めて会った時から」
僕の脚の上に座ったミシャが涙目で僕を見詰めて。ずっと望んでいた言葉を言う。こんなことあるの?夢なら覚めないで欲しい。
「私のこと嫌いじゃないなら、ちゅーしてよ…」
「…馬鹿、僕の気持ちも気付かないで僕のこと好きだって?ふざけないでよ」
「え?」
「僕だって好きだよ。…ううん、僕の方が好きだよ」
「ユーリ…」
柔らかくて白くって、剣士だなんて信じられない君の頬に触れて。
柔らかな唇に触れた。
「っ…」
さっきからしろしろ言ってた癖にいざしたらびっくりしたみたいに肩を震わす。
近付いたら逃げる子猫みたい。
思わず頭を撫でたらミシャが口を開いた。
「ユーリス…もっと」
「え、」
「だめ?」
あんなにびっくりしてた癖にそんなこと言えるって度胸があるんだかないんだか。
でもいざしろって言われるとしづらい。
考えあぐねた末に一瞬だけ触れた。
「んっ」
「……これでいい?」
「う、うん」
恐らく赤くなっているであろう僕の顔を見て#ミシャも#赤くなっている。
あ、まずい。そろそろまずい。
「ね、ミシャそろそろどいてくれない?」
「え?」
「ここ、僕のベッドの上。二人きり。ずっと片思いだった子と両思いになって我慢出来ると思う?」
「えっ!えっ…きゃっ」
「あんまりどかないなら知らないよ?」
腰に腕を回して抱きしめた。ああ体までふわふわなんだな、男とは違う。
「ちょっちょっユーリス離し…」
「だめ。離してなんかやらない」
「ユーリス!」
「僕を散々困らせたんだからこのくらい良いだろ?」
このくらいの意地悪許されるよね?でも本当に止まらなくなる前に離そう。
ミシャの髪に顔を埋めながら僕はそんなことを考えていた。
一方通行⇔一方通行
▼