神様が見てる
近江屋から一緒に出るのは危険だからって、外で待ち合わせすることになった龍馬さんと私。
けど待てども待てども一向に龍馬さんは現れない。
この時代には時計がないからよくわからないけど、来た時は真上にあった太陽が今はもう沈みかけている。
「はぁ」
私は一つため息をついて石段に座り込んだ。
待ち合わせをしたのは私がこっちへやってきたきっかけのお寺。ここならあまり人も来ないし、ちょうどいいだろうって。
「遅いなぁ…」
あまりに来ないと怒りよりも焦りよりも苛立ちよりも不安が心を占拠する。龍馬さんに何かあったんじゃないか。
今すぐに探しに行きたいけど入れ違いになったら困る。動けない。
私は胸の前でぎゅっと手を組んだ。
どうか龍馬さんが無事でありますように。
「紘」
祈ったその瞬間に聞き慣れた声がして私は目を開けた。
そこには、息を切らした龍馬さん。
「すまん!まっこと待たせてしもうた。新撰組がうろついちょったからちくと身を潜めてちょったんじゃが、なかなかいなくなってくれんかった」
「…」
「紘?…やっぱり怒っちょるか?」
目の前で眉を下げる龍馬さん。
ああ、無事だったんだ。よかった。
そう思ったけど素直にそういうのはなんか悔しいし恥ずかしい。それと、もう少しだけ困らせたい。
私はわざと顔をむすっとさせて立ち上がった。
「紘?どうしたんじゃ?」
「龍馬さんなんて、知りません」
ぷいとわざと唇を尖らせてそっぽを向いて見せる。
困ったように龍馬さんが名前を呼んだ。
「散々待たせて、心配かけて、もう知りませんっ」
すたすたと後ろを振り返って歩くと龍馬さんが追いかけてくる足音がして、少し緩みそうになる頬を引き締めた。
「心配してくれたがじゃ?」
「知りません!」
「心配してくれたんじゃな!」
「きゃっ…」
ぐいっと腕を後ろに引かれてよろければ、背中に当たる龍馬さんの体。
腕が前に回されて後ろから抱きしめられる格好になった。
「ちょっと!龍馬さん!」
「いやあたまるかたまるか!」
声は弾んですごく嬉しそうな龍馬さん。形だけの抵抗をしても全く腕が緩むこともなく、私は腕の中に収まってしまった。
「龍馬さん、私まだ」
堪らず振り返り、怒ってるんですからね、と告げようとした唇はあっという間に塞がれてしまった。
「…龍馬さん、神様、見てますよ」
「かまわんき、」
もう一度近づいてくる唇を避けることはいくらだって出来たけどそんな気はもう起こりもしなかった。
神様が見てる
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