明ける年



「今日はいいお天気でよかったですね」

もうすぐ年が明ける。こっちに来て初めての年越しは大好きな人達に囲まれた幸せなものになった。

「そうですね、星が良く見える」

武市さんが盃を煽りながら答えてくれた。
空になった盃にお酒を注ぐとくいと袖を引かれた。

「武市の酌なんてせんでええき」

「龍馬さん」

既にほろ酔いの龍馬さんはにこにこ笑いながら袖をぐいぐい引っ張る。よろけて龍馬さんに倒れ込むように座った私の手に持った酒瓶からお酒が零れて龍馬さんの服にかかった。

「あっ」

「お?」

「ごめんなさい!かかっちゃった」

慌てて手ぬぐいで拭くと龍馬さんの頬が赤く染まる。

「こりゃあまいったまいった!役得ぜよ」

「え?」

ぎゅっと抱きしめられて 途端に視界が龍馬さんの着物に覆われる。

「何やってんスか!」

ぐいっと体を引き離してくれたのは慎ちゃんだった。

「慎ちゃん!」

「姉さん、大丈夫っスか」

「あ、うんありがとう」

「酒を飲んだ龍馬さんに近づいちゃダメっスよ」

「う、うん」

慎ちゃんは私を座り直させると酒瓶を取って、代わりに何かあたたかいものを握らせてくれた。

「何?」

「甘酒だ」

「以蔵」

「酒は飲めないが甘酒くらいなら平気だろ」

「以蔵くんが女将に頼んでくれたんっス」

「え?」

「慎太!」

「以蔵、ありがとう」

「…別にお前の為じゃない」

赤い顔でそっぽを向いてしまった以蔵に気を取られていると肩に何かがかけられる。

「体を冷やすといけない」

振り向くとお酒に酔ったのか少し赤い顔の武市さんが私に着物をかけてくれていた。

「あ、ありがとうございます」

「いや」

にこっと優しく笑って武市さんが頭をぽんぽんと叩く。
すると空気を震わせるように除夜の鐘の音が聞こえた。

「もうそろそろ年が明けるのう」

相変わらず上機嫌の龍馬さんが呟く。
縁側に並んで座って、みんなで月を見ながらお酒を啜っていたけど、唐突に私は思い立って口を開く。

「龍馬さん、」

「お?どうしたがじゃ紘さん」

「本年は大変お世話になりました、来年もよろしくお願いします」

ペこりと頭を下げると龍馬さんも盃を置いてペこっと頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくのう。今年紘さんに出会えてよかったぜよ」

「私もです」

にししと笑う龍馬さんに私も思わず頬が緩む。
そして龍馬さんの横にいる慎ちゃんに声をかける。

「慎ちゃん、今年は色々とありがとう。来年もよろしくね」

「いえ、こちらこそよろしくっス!」

「来年も仲良くしてね」

「はいっス!」

「武市さん、今年はお世話になりました。来年もよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ今年は世話になったね、来年もよろしく頼む」

「はい」

「以蔵」

「なんだ」

「以蔵も色々とありがとう。来年もよろしくね」

「…ああ」

そして鳴り響いていた除夜の鐘が最後のひとつを告げた。

「明けましたね」

「明けたのう」

「「「「「あけましておめでとう」」」」」

みんなで顔を見合わせて笑った、そんな素敵な年明けの幕開け。










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