あなたを束縛
「紘、いるか」
「あ、利通さん。お仕事ですか?」
「ああ、頼めるか」
「はい」
利通さんはそう言って私にネクタイを差し出した。
いつだったか、利通さんに「私、ネクタイ結ぶのはなかなか上手いんですよ」と言ったことがあった。
それから急ぎではない時は私にネクタイを結ぶのを頼んでくる。
茶色のネクタイを利通さんの首にかけ、結び始めた。
「紘、」
「はい?」
ちゅ、と唇が額に触れる。思わず動きを止めた私に利通さんは愉しそうに笑う。
「どうした、手が止まっているぞ」
その言葉にもう一度下を向き、再開すると今度は頭の上に何かが乗る。
それは利通さんの顎で、ネクタイとの距離が近づいて結びにくい。
「〜っ利通さん!これじゃあ結べませんっ」
状態はそのままに抗議をすると偉そうに腰に置かれていた利通さんの手が動くのが見えた。
ぎゅっと急にネクタイとの距離が更に縮まって抱き寄せられたのだと理解した。
「利通さん!」
「なんだ?」
「なんだじゃありません!お仕事に遅れますよっ」
「構わん、まだ時間はある」
「そんな―」
「最近構ってやらなかったからな」
背中に回っていたはずの手に顎を掴まれて、強引に上を向かされる。
いつの間にか頭の上からどいていたのか、利通さんの顔が視界に入ったかと思った瞬間には、よく見えなくなった。
「んっ…!」
キスされたからだ。
強引なキスは唇を開いて舌が捩込まれる。
じれったいような舌の動きや、貪るような唇に翻弄される。
「んっ…は、んぅっ…利、み、ちさ」
「まだ終わりとは言っていない」
「んんっ!」
一瞬離された唇に安心したのもつかの間、今度は角度を変えて塞がれた。
荒々しいキスとは裏腹に髪に絡む指先は優しくて、つ…と首筋に触れる度に背中がぞくりと震えた。
「時間だな、私は行ってくる」
いつの間にかくしゃくしゃに握り締めていたネクタイは、結局結ばずに。漸く解放された私の手の中に残されていた。
あなたを束縛
(結局囚われている)
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