無自覚な恋
「小娘、何をしている」
長州藩邸での会合に小娘がついて来ていると知り、宛がわれた部屋に行けば鞄をひっくり返し中身を広げたまま、何かを見ていた。
「あ、大久保さんこんにちは」
「なんだそれは」
小娘の手にあるものを見ると、細々した人間が写っていた。
「あ、これプリクラです」
「…ぷりくら?」
「えっと、小さいホトガラに裏を糊付けしたような感じのもの…かな?」
小娘から手渡されたそのぷりくらというやつは何枚もあった。小さくてよく顔が見えん。
私は胸ポケットに入れておいた眼鏡を取り出し、かけて再度ぷりくらを見る。
漸く小娘らしき人物を発見出来た。…随分顔が違う気もするが。
「大久保さんって眼鏡かけるんですね」
少し赤い顔をした小娘が言うのを聞き流し、何枚もあるぷりくらに目を通す。
そのうちの一枚に目が止まった。
「おい、これは」
「あ、それ剣道の大会の打ち上げの時のやつですね」
「こいつは誰だ」
「剣道部の先輩です」
私は小娘の肩を抱いて写っている男を指差した。
誰も彼も小娘と同じ珍妙な服や詰め襟の服をだらし無く着ている。
紘優勝おめでとー!と書いてあるようだ。字が汚くてえらく読みづらい。
「お前の恋人か?」
「えっ違いますよ!」
じゃあ何故肩を抱かれている。
無意識に眉間に皺が寄る。
私はおもむろに立ち上がると小娘にぷりくらを押し付けた。
「これは私がもらっておいてやる、感謝しろ」
「えっちょっと大久保さん!?」
「私はこれから会合だ、ついてくるんじゃないぞ小娘」
「ちょっちょっと!」
まだ騒ぎ足りなさそうな小娘を尻目に襖を閉める。眼鏡を外してぷりくらと一緒に懐に閉まった。
眉間に寄った皺の意味も、ムカムカするこの胸の意味も、今はまだ考えてやらない。
「このぷりくらはどう処分するかな…」
坂本くんたちが待つ部屋へ歩きながら、私は無理矢理思考を切り替えた。
無自覚な恋
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