惹かれてやまない
「龍馬の好きなもの?鶏じゃないか」
「それはもちろん姉さんっス!」
「かすていらがどうとか言っていた気がするが…」
龍馬さんの誕生日を知って、みんなにリサーチして、材料を集めたまではよかったんだけど…
肝心の龍馬さんが、熱を出してしまった。
そもそもこちらでは年明けと共に歳を取るから誕生日を祝う習慣はないらしい。それもあって内緒で用意するのは楽ではあったけど…
「龍馬さん?入りますよ」
襖を開けると龍馬さんが体を起こす。まだ顔は赤くてだるそう。
「龍馬さん、ご飯食べれますか?」
枕元に座って鍋の蓋を開けると龍馬さんが目を輝かせた。
「鶏粥じゃっ」
鶏粥じゃっ鶏粥じゃっ嬉しいのう嬉しいのうっとパタパタと布団を叩く龍馬さん。
私はお粥をついで、れんげで掬うとふーふー冷ます。
「はい、あーん」
口元まで近付けてから、龍馬さんが赤い顔できょとんとしているのに気付く。
はっとして手を引っ込めようとしたら龍馬さんの手が捕まえて、ぱくっとお粥を口に入れた。
「ん、美味い!」
「そ、そですか…よかった…」私は恥ずかしくなって無意味に器によそったお粥をぐりぐりと掻き混ぜる。俯いていた私の頭に龍馬さんの声がかかった。
「紘」
「はい?」
「あーん」
「えっ」
龍馬さんは口を大きく開けてお粥をねだる。
「また、食べさせてくれんか?」
「うっ…あ、あーん」
「んっ美味いのう本当に!」
もぐもぐする龍馬さんに次から次へとねだられてあっと言う間にお粥はなくなってしまった。
お薬を渡して私は鍋を台所に下げに行く。
そして用意していたものの仕上げを始めた。
「龍馬さん」
襖をもう一度開けると龍馬さんはまだ体を起こしたままだった。
「何やらいい匂いがするのう」
「はい、これです」
持ってきたものを見せると龍馬さんはきょとんとした。
「これなんじゃ?」
「ええと…ホットケーキです」
「ほっとけえき?」
「カステラは作り方がわからなかったので…その、龍馬さん今日お誕生日でしょう?」
「へ、」
「私がいた時はお誕生日をお祝いするんです」
「ほうかほうか、紘はワシの誕生日を祝ってくれちょるんか」
「はい、龍馬さん生まれてきてくれてありがとうございます!」
「ん、ワシも紘に会えて嬉しいぜよ。生まれてきてよかったのう」小さく切った焼きたてのホットケーキを龍馬さんの口元に運ぶ。
ぱくりと食べたあと龍馬さんは頬っぺたを押さえた。
「頬が落ちそうなほど甘いのう!紘は料理上手やき、いい嫁さんになれるぜよ」
「えっ」
「ワシの嫁さんだったらええのう」
「もっりょ、龍馬さんっ!」
恥ずかしいのをごまかすように私は龍馬さんにホットケーキをどんどん差し出す。
あっと言う間にお皿が空になって、龍馬さんは満足したように寝転がった。
「満腹じゃー幸せじゃー」
「ふふ、よかった」
「紘、ありがとさん」
「いいえ、お皿片して来ますね」
「…いってしまうがか」
少し寂しそうな龍馬さんに布団をかけ直す。
「そろそろ寝ないと、風邪治りませんよ」
「そうじゃのう…」
「龍馬さん」
「ん?」
顔を上げた龍馬さんのおでこにちゅ、とキスをした。
「紘…」
「風邪が治るおまじないです。は、早く治して下さいね!おやすみなさい!」
ぽかんとした龍馬さんの顔に、急に恥ずかしくなって早口で言ってパタパタと部屋を出た。
「まいったのう…ほんとにかわええ」
前髪をくしゃっと掴んだ龍馬さんが嬉しいような困ったような顔で笑ってるなんて、私は知らないまま。
「いかん…また熱が上がりそうじゃ」
惹かれてやまない
(龍馬さんお誕生日おめでとう!)
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