眠り姫にくちづけを
「こんなところで寝ちょったがじゃ…」
すーすーと規則的な寝息を立てて紘は畳の上で眠っちょった。
普段肩の辺りでさらさらと揺れる髪は、今は無防備に畳の上に散っている。
「相変わらず危機感がまるでないのう」
一緒にいる皆が紘のことを憎からず思っちょるのは周知の事実じゃ。
じゃが、本人はそのことに全く気付く気配はない。
「あんまり鈍いのも罪作りじゃな…」
床に散った髪を一房手に取る。さらさらでつやつやの、それでいて芯のある薄茶の髪を捕まえてそっと唇を落とした。
触れたくて、いつも手を伸ばせずにいたその髪がワシの手の中にある。
まるで紘がワシのものになったような錯覚に落ちそうになった。
「すきじゃ…」
今は夢の中の、君に呟く。
もう一度ちゅ、と唇を落とすと紘がんん…と身じろいだ。
「りょ…まさん…」
起こしたのかと顔を見ればふにゃりと笑った顔のまますやすや眠っていて。
本当に敵わない。
「参ったのう…髪の毛一本までワシのもんにしたくなったきに」
手の平に残ったままの髪の毛を指先でくるくると遊び、あらわになった白い頬に唇寄せて。
眠った紘の耳元で呟いた。「誰にも渡さんぜよ」
ちゅ、と頬に落とした唇はワシだけの秘密。
眠り姫にくちづけを
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