だって君が笑うから
「挽き肉なんて、ないよなぁ…やっぱり」
昨日薩長同盟が上手く行ったから、と寺田屋のみんなと薩摩藩邸に呼ばれて宴会が開かれていた。
もちろん高杉さんや桂さんも一緒だ。
みんな飲めや食えやの大騒ぎで、翌日には―。
「頭、痛いぜよ…」
「うっ気持ち悪いっス…」
と数名潰れていた。
何か食べて貰わないと仕方ないので、私は大久保さんにお願いして台所をお借りすることにした。
「んー…どうしようかな」
得意の鶏団子のスープでも作ろうかと思ったけど、挽き肉がない。そっか、挽き肉を作るとこから始めなきゃいけないのかな…もしかして。
先の見えない料理に少しうなだれていると肩を誰かに叩かれる。
振り向くと襷掛けをした桂さんが立っていた。
「私も手伝うよ」
「桂さん!いいんですか?」
「ああ、一人じゃ大変だろう?」
「ありがとうございます」
桂さんの申し出を有り難く受けて、私は必要な調味料があるかを確認する。塩胡椒醤油、帆立の貝柱。うん、調味料は大丈夫そう。
あとは材料があれば大丈夫かな。
鶏のモモ肉にむね肉。葱と生姜。あと筍。
うん、いける。
私は鍋に水を入れて帆立の貝柱でダシを取りはじめた―。
「桂さん、味見してください」
「ああ。…うん、いい味だと思うよ」
「よかった!じゃあ早速運びましょうか」
「鍋は私が持つから、紘さんは椀や箸を持ってもらえるかな?」
「はい!」
お盆に椀や箸、お玉を載せて桂さんの前を歩く。
襖を開けて、みんなが集まってる部屋に鍋を置いてもらった。
「みなさん!食べて下さい!」
「紘さん…これは?」
少し怠そうな武市さんが卓の前に進み出る。
私は鍋から椀に取り分けて、箸と椀を武市さんに渡す。
「鶏団子のスープ…あっ、えーと鶏団子汁です!薄い味付けにしてあるので胃にも優しいと思います」
次々とついでいると、がらっと後ろの襖が開く。
「小娘、料理は終わったのか」
「はい!大久保さんありがとうございました。一杯いかがですか」
「食ってやらんこともないぞ」
相変わらず偉そうに大久保さんは椀を受け取る。
それを見てから私は壁にもたれてぐったりしている慎ちゃんと、刀を抱えて黙ったままの以蔵のところにお椀を運んだ。
「慎ちゃん、以蔵、食べてみて?気持ち悪いの治ると思うから」
「わぁ…いい匂いっス」
「…箸を貸せ」
「何も食べない方が体に良くないからね」
食べ始めた二人を見て今度は座布団を抱きしめたままうずくまって転がっている龍馬さんと高杉さんにお椀を運んだ。
「龍馬さん、高杉さん大丈夫ですか?」
「あー…大丈夫だ」
「何とかいきちょる」
「あの、これ、食べれます?作ったんですけど…」
「何ぃ!?紘が作ったのかっ」
「は、はい」
「食べるにきまっちょろうが!」
二人ともガバッと跳ね起きて私からお椀を受け取る。
急に起き上がって大丈夫かな。ちょっと心配になりながら私は最後、桂さんにお椀を持って行った。
「桂さん、ありがとうございました。よかったら食べてください」
「ありがとう紘さん」
そうしてみんなにお椀が行き渡ったのを見て、私も自分の分に口をつける。
「いい味だ、君はいい妻になれる。なんなら僕の妻になってくれても構わないよ?」
「美味いぞっ紘!お前は俺の嫁に来いっ」
「ここまで鶏を美味い団子に出来るとは紘は大したもんじゃ!流石はワシの選んだ女子じゃっ」
「…美味い。また、作ってくれ」
「姉さん美味しいっス!流石俺の姉さんっス!」
「小娘にしては、なかなかやるじゃないか。このまま私のところへ身を寄せてもいいぞ」
「さっき味見した時も思ったが、美味しいよ、紘さん」
「えへへ、ありがとうございます!」
みんなにお礼を言われて思わず顔が綻ぶ。
あったかいスープが心もあっためてくれたみたいで、なんだかとても嬉しかった。
だって君が笑うから
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