眠る君と秘密を共有



大久保さんが、変。

私は書類をパラパラとめくる大久保さんの背中をじっと見詰める。
普段なら、振り返って私に惚れたのかだのなんだの何かしら言ってくるのにそれがない。
そもそも今日はあまり嫌みを言われていない。
たまに思い出したように言われるそれにも覇気がまるでない。
というか、今日は全体的に口数が少ない気がする。
元々そう多くはないけど、口を開けば飲まれるんじゃないかと言うほどの畳み掛けるような嫌みが出て来るのが日常なのに。

「…コホッ」

もしかして。
あまり喋らないのは、喉が痛いから?
というかもしかして熱もあるんじゃ…
でも大久保さんは絶対に言わない。きっと具合悪いなんて言い出すわけがない。
よし!
私は立ち上がって部屋を飛び出した。



「大久保さん!」

スパーンと襖を開けると大久保さんがけだるそうに振り向いた。心なしか顔が赤い。
襖を閉めてそっと近寄り、持ってきたものをことんと静かに卓に置いた。

「?小娘、これは一体なんだ」

「蜂蜜生姜湯です。飲んでください」

「何故私が飲まなきゃならんのだ」

「喉に効きますから」

「…小娘、お前」

「ばらされたくなかったら、飲んでください」

「…私を脅すとは、いい度胸じゃないか」

ニヤリと笑って大久保さんが蜂蜜生姜湯に口をつける。蜂蜜は喉にいいし、生姜は体をあっためる。
私はよくホットレモネードとか飲んでたけど、この時代じゃ作り方わからないからおばあちゃんが昔よく作ってくれた、これにした。

「…美味かった」

全部飲み干して大久保さんが湯呑みを置く。はぁと怠そうに息を吐く大久保さんの首をこっちに向けて、額と額を合わせた。
…やっぱり、熱い。

「大久保さん、やっぱり熱があるじゃないですか!寝てください」

「五月蝿い、大丈夫だ」

「大丈夫って…こんな熱いのに!」

「この書類には今日中に目を通す必要がある」

「そんなっ…」

「そんなに横になれと言うなら、膝を貸せ」

「!?」

ごろん、と大久保さんが私の膝に頭を乗せる。

「おおお大久保さんっ!?」

「五月蝿い、頭に響く…」

「う」

思わず口を手で押さえる。膝の上の大久保さんは眉間に皺を寄せて苦しそうで、やっぱり辛いんだろうなと思った。

「暫く…眠る」

「はい、お休みなさい大久保さん」

そっと頭を撫でようとしたらその手を掴まれて握りこまれてしまった。
手の平まで熱い。

「紘…お前…」

「え?」

「…」

「大久保さん?」

すっかり寝入ってしまった大久保さんが最後に何を言おうとしたのか、私には聞こえなかった。

「…おやすみなさい」

眠る大久保さんの顔を覆うさらさらの髪に、私はちゅっとキスを落とした。
目が覚めた時、少しでも楽になっていますように。









眠る君と秘密を共有
(紘…お前…なかなか侮れないな…)

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