紅の誘惑



「小五郎!紘を見なかったか」

「紘さんなら部屋じゃないかな?先刻一緒に帰ってきたよ」

今日紘は小五郎について寺田屋へ出向いていた。
俺が連れていくと言ったが書類を確認しておけと小五郎に止められて渋々と屋敷で待っていた。
小五郎が帰ってきたと聞いて廊下に出たがもう既に紘は小五郎と別れていたらしい。

「そうか、わかった」

くるりと小五郎に背を向けて紘の部屋の方向を向いたところでがしっと腕を掴まれる。

「書類の確認は終わったのかい?晋作」

顔を見ずともわかる。絶対笑っている、しかも含みのある笑顔で。
だらだらと冷汗が流れる感じすらするが、知らんぷりをして走り出した。

「こら!晋作!」

「あとでやる!」

紘の部屋の前に着いて、息を整える。
そして思いっ切り襖を開けた。

「紘っ!入るぞ!」

「きゃ!?」

部屋に入ると紘はこちらに背を向けて、何かをしているようだった。
わたわたと何かを片して、背を向けたまま話す。

「し、晋作さん!?きちゃだめ!」

「なんでだ」

「なんででも!」

頑なに拒む紘にむっと眉間に皺が寄るのを感じた。
紘の静止を無視してずんずんと部屋に入り肩に手をかけてこちらを向かせる。

「きゃ…!」

「紘、お前っ…」

こちらを向かせて、呆然とした。普段とは雰囲気が違う。なぜなら紘の唇には紅が引かれていたからだ。

「紘…それ、どうしたんだ」

「て、寺田屋のお歳勢さんがくれて」

「紅をか」

「は、はい…変、ですか」

紅を引いて普段より色っぽくなった紘が、おどおどと上目遣いで俺に聞いてくる。
変なわけがない。むしろそそる。
俺は肩に手をかけてそっと顔を近付けた…

むにゅ

「…ん?」

目を開けると紘が真っ赤な顔で俺の唇を受け止めていた。…掌で。

「何で止めるんだっ」

「当たり前でしょ!」

「そそるんだから仕方ないだろう!」

「そっ…!?」

大袈裟に慌てる紘の唇に指で触れる、まだ乾いてない紅が指に少しついて。

「これ以上俺を夢中にさせて、どうする気だ」

そういって唇を奪ってやった。
紅を引いたばかりの唇はしっとりとしていて、俺の乾いた唇に吸い付いてくるみたいで。
離したくなかった。

「っは…」

苦しそうな紘を解放してやると唇から紅はほとんど消え去っていた。
ぐいっと手の甲で唇を拭えば紅い色が移る。
ぽかんとしている紘の唇を舌で舐めてニヤリと笑った。

「あんまり俺を翻弄するな」









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