もっとぎゅっとそっとぎゅっと



あの日から、私は龍馬さんを避け続けている。
手を握り込まれそうになってからと言うもの、恥ずかしくて恥ずかしくてどうにかなりそうでまともに龍馬さんの顔を見ることすら出来ない。
普通にしなくちゃって思ってはいるんだけど…。


はあ、とため息を一つつき、私は風呂場の戸を開け、中に入った。

「…あ」

その声にぱっと顔を上げたら。
湯上がりの、浴衣を着ている途中の、半裸状態の、龍馬さんが、いた。

「ごっごめんなさっ」

慌てて出ようとした私を龍馬さんの腕が捕まえる。後ろからぎゅうっと抱きしめられて、背中から湯上がりの少し熱い体温が伝わってきて。
私の顔は、一気に真っ赤になる。

「りょっりょっ龍馬さんっ」

「…紘、逃げんでくれんか…何もせん…」

「もっもうしてますっ」

「だめじゃ、この腕を離したら紘は逃げるじゃろ」

「逃げませんからっ」

「だめじゃ」

「龍馬さん!」

「離したく…ない」

こつんと私の肩に龍馬が額を置いて、腕の力がぎゅっと強まる。
いつもの龍馬さんとは違う、少し弱々しい声で龍馬さんが話し出す。

「紘から避けられる事ほど辛いもんはない」

「紘は、ワシのすべてじゃ」

「距離を取られると、寂しい…」

「ワシの、そばにいてくれ…」

ぼそぼそと、でも確かに私の耳に届いたその言葉にいやってくらいに心が揺さぶられる。
ぎゅうっとまた龍馬さんの腕の力が強まって、少し苦しいくらいになった。

「紘…」

抱きしめたまま龍馬さんが苦しそうに名前を呼ぶ。

「龍馬さん、少し、苦しいです」

「あっ、すまん!」

龍馬さんが少し腕の力を弱めてくれて私やっと息をつく。
その体制のまま私は話し出した。

「龍馬さん、ごめんなさい。私、ちょっと恥ずかしかっただけなんです」

「紘…」

「ごめんなさい、私、ちゃんとそばにいますから。龍馬さんの夢が叶うのそばでちゃんと見てますから」

そういうと龍馬さんが今度はそおっと力が入り過ぎないように抱きしめてきた。
前に回った腕は少し冷えていた。

くるっと龍馬さんの腕の中で体制を変えて、龍馬さんの方を向く。まだ顔を見るのは恥ずかしかったから、俯いて鎖骨辺りに頭を当てた。

「ありがとう…紘」

さらさらと龍馬さんが優しく私の頭を撫でるから、私はぎゅっと龍馬さんを抱きしめてごめんなさい、ともう一度呟いた。
傷付けて、ごめんなさい。
そばにいる約束破ってごめんなさい。
もう、離れないから。
その気持ちをたった一言に込めて、伝われ!と念じながら抱きしめる力を強くした。










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