愛をもっと感情でずっと君をもっと感じたい



大久保さんが着物を用意したから取りに来いと言われて、私は薩摩藩邸に向かっていた。
みんなちょうど用事があって出払っていたので、人に道を聞きながら歩いていた。

「ねえ」

「はい?」

不意に後ろから声をかけられて振り向くと感じの良さそうな男の人が立っていた。

「君、さっきから色んな人に道聞いてるみたいだけど、どこに行きたいの?連れていってあげようか?」

「ええと…」

薩摩藩邸に連れていってもらうのは、やっぱり、まずいよね…
断ろうと顔を上げると肩をぐいっと抱かれる。

「えっ…!?」

「ほら行こう。どこに行きたいの?」

「いやっあのっ…」

強引に歩かされて半ば引きずられるようになる。腕から逃げようと体をよじるけど力が強くて逃げ出せない。
にこにこしてるけど、その有無を言わせない笑顔が逆に怖く見えてきた。

「やだっ離してっ!」

「何怖がってるの?」

余計に腕の力が強くなる。

「その手を離せ」

目の前に立ち塞がる人がいて、目を見張る。偉そうに立っているその人は。
―大久保さん。

「その汚い腕を離せと言っている」

いつもの倍以上不機嫌そうな大久保さんがずんずんと進んでくる。
私の腕を引くと肩に回っていた男の人の腕を手刀で払った。
そのまま私を片腕で胸に引き寄せる。

「こいつに触るな」

大久保さんが一睨みすると男の人がそそくさと逃げていく。
私は突然のことに呆然としたままだった。
大久保さんの手が頭を撫でてするりと髪に手が滑ってハッとする。
顔を上げると相変わらず不機嫌そうな顔で私を見下ろしている。

「あ…」

「お前は本当に隙が多過ぎる」

「すいません…」

「少しは自覚しろ」

「はい…助けてくれてありがとうございました」

大久保さんから離れて深々と頭を下げると、ふんと大久保さんが息を吐く。そして私の手を取った。

「これ以上、手をやかすんじゃない」

手を握ってすたすたと歩き出す。

「えっあのっ」

「なんだ」

「あの…手」

「手がどうかしたか」

「このまま行くんですか?」

「…不満なのか」

大久保さんの眉間に皺が寄って私はハッとする。ま、また怒らせちゃった…?

「だいたい一人で来るからこうなるんだろう」

「みんな用事があったので…」

「あまりに遅いから私直々に出てきてしまったじゃないか」

「いや…はい…すいません」

「だからこれ以上手をかけさせるな。お前は私のだからな、紘」

「いっいつ大久保さんのになったんですか!」

「ん?違ったか」

「違います」

「じゃあ今からにしてやろう。だから」

足を止めて大久保さんが振り返る。顔が近づいたと思ったら瞼の上にちゅっと柔らかい感触がした。

「だから、私以外に触らせるんじゃない紘」

「…っ」

ずるいくらいに甘い声で大久保さんが耳元で囁いた。








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