砂糖も蕩けるキスをして
ぼうっと縁側に腰掛けて高い青空を見上げていた。
綺麗…
きっとこの世界でも私の世界でも空は変わらないんだろう。
そんなことを思っていると、目の前がふっと真っ暗になる。
「だーれじゃ」
…誰も何も間違いなく龍馬さんだ。すっごく弾んだ声で言ってるから後ろできっとわくわくしてるんだろうなぁと思うとなんだか可愛らしくて顔が勝手に笑ってしまう。
…少しいじわるしちゃおうかな。
「うーん誰だろう…慎ちゃん?」
「違うぜよ、ワシじゃワシ」
「じゃあ以蔵?」
「他にいるじゃろ」
「わかった!武市さんだ!」
そういうとぱっと手が外されて視界が明るくなる、しゅんとした顔をした龍馬さんが後ろから覗き込んでいた。
「…紘、ワシの声がわからんのか…?」
あんまりにしょんぼりとしているものだから私は笑いが堪え切れずについに笑い出してしまった。
龍馬さんはきょとんとしている。
「違いますよ龍馬さん、私、最初からわかってました」
「わかってた?」
「だって、ワシとか、じゃとかぜよってつけるの龍馬さんだけだもん」
「ならなんで言ってくれんかったんじゃ…」
「龍馬さんがすっごく楽しそうだったから少しだけいじわるしたくなったんです」
「紘はずるい女子じゃのう」
「ごめんなさい、龍馬さん怒ってますか?」
「おこっちょる」
拗ねたみたいな顔をして龍馬さんが俯く。そのほっぺたにちゅっと唇を寄せた。
「…まだ、怒ってます?」
龍馬さんは真っ赤な顔で口をあんぐり開けて私を見ていた。そのまま照れた顔で私の腕を掴んで体を引き寄せる。
「おこっちょる、って言うたらもっとしてくれるんかのう」
「しませんっ」
「じゃあワシからじゃ」
言うが早いか龍馬さんが鼻の頭にちゅっとした。
そのままお互いの鼻が擦り付けられるくらい近くに顔を寄せる。
動かしたら唇が触れそうな距離に顔があって、今度は私が真っ赤になる番だった。心なしか龍馬さんのほっぺもまだ赤い気がするけど。
「次はどこがええかのう?」
「もっ、しなくていいですっ」
「だーめじゃ、いじわるしたからお返しじゃ」
「私こんな恥ずかしいいじわるしてないのに…」
「ん?恥ずかしいんか?」
「当たり前です!」
「なら、なおさら恥ずかしがらせたくなるのう」
「〜〜っ龍馬さんのいじわるっ」
「お返しじゃ、って言ったじゃろ?」
それに好きな女子の照れた顔を見たいのは男なら当然じゃよ、と龍馬さんが笑う。顔が近すぎて直視出来ないけど。
「もっもう充分仕返しになりましたから!龍馬さん離してください!」
「嫌じゃ」
腕を掴んでた手が腰と頭に回る。こっこの体勢は…
自由になった両手で龍馬さんの体を押し返そうとしてみたり、顔を離そうとしてみるけどやっぱり男の人の力にはかなわない。
「龍馬さんだめっ」
「ワシと紘は恋仲じゃろ?」
「そうですけどっ」
「じゃあ何もだめなことはないがよ」
龍馬さんの顔がこれ以上ないくらいに近付いて、その距離がゼロになる。
唇に唇が触れて腰が引き寄せられる。
腰を引き寄せられる強い力とは正反対に唇はすごく優しくて、そのキスに酔ってしまいそうになった。
「龍馬…さ、」
「紘はまっこと愛らしいのう」
唇を離して龍馬さんが赤い頬のままにししっと笑う。
頭に回ってた手で唇をつつ…となぞると、小首を傾げてもう一回…いいかのうと聞いてきた。
そんな顔をされたら断ることなんて出来ないの、知ってるのに。
恥ずかしくて、わかるかわからないかくらい小さく頷くと龍馬さんが笑った。
「紘、大好きじゃ」
そうしてまた龍馬さんが私の唇を奪った。今度は少し強引で、でもやっぱり優しくて。
龍馬さんを表すようなそんなキスだった。
砂糖も蕩けるキスをして
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