席替えで二度連続隣の席になった



「はぁ」

今日何度目かわからない溜息をついた。
あと10分で今日の授業が終わる。普段なら嬉しいチャイムを鳴らないでくれと願う日が来るなんて思いもしなかった。

「今日はえらい溜息つくなぁ」

なんかあった?と目をまんまるくした謙也くんに私は苦笑いしか返せなかった。このあとの席替えが嫌なんですーなんて言えるはずもない。

「ほな席替えするでー」

授業が終わる5分前、唐突に担任が言い出す。6時間目は運の悪いことに担任の教科だった。
席替えにそわそわとする教室の雰囲気に彼は席替えを早めることを考えたようだ。
普段より授業が早く終わることに教室内は歓喜の声に包まれる中、私は一人机に突っ伏した。
今は全く嬉しくない。



そんなことを言っていてもくじを引く順番は来るわけで、重い気分のまま折り畳まれた小さな紙屑を手の中に入れる。その場で紙を開いて記されていた番号の位置に月城と記名した。

私が暗い気分のまま席に戻るとガタガタッと賑やかに音を立てて謙也くんが立ち上がった。
くじを引くんもスピードスターや!なんて言いながら教卓へ走っていく。
私はその背中を見送ってから机に突っ伏した。

「えっ」

と同時に聞こえた声にのろのろと顔を上げた。視界に入ってきた謙也くんは手の中の紙切れと黒板を交互に見ていた。動揺したように何度も紙と黒板を見ている謙也くんの後頭部を早う書けや!と担任が叩いた。だっ!と言って謙也くんは後頭部を摩りながら振り返って担任をみる。そして担任越しに私と目が合ってうろたえたように黒板を見た。え?なんで?

すると謙也くんはのろのろと彼にはあるまじき遅さでチョークを取る。
そして番号を消して忍足と書いた。のだと思う。彼の背中に隠れてよく見えなかった。
のろのろと席へ戻ってくる彼の向こう側に黒板が見える。忍足の隣には、

「…また、よろしゅうな」

ガタ、と隣に腰掛けた彼が照れたようなはにかんだような笑顔で私に笑いかけた。

忍足の隣には……“月城”と確かに私の字で書かれていた。


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