重い資料運びをしていたらさりげなく手伝ってくれた



私はふらふらと覚束ない足取りで廊下を進んでいた。
それもこれも呼び止められた担任に私が持てる許容量を遥かに超えた教材を渡されたからだ。
よく前が見えない状況で分厚い本や脇から滑り落ちそうな世界地図を運ぶ。
普段はさして遠いとも感じない教室がやけに遠く感じた。あとどのくらいだろう。

「大丈夫か?」

急に視界が開けてすぐ側に体温を感じた。視線を上に持って行くと斜め前から謙也くんが心配そうに私を見ていた。そして軽々と私が持っていた教材を奪い、私の手にはやたらと大きな世界地図のポールだけが残った。

「え、あ、」

「先生も女の子にこんなん持たせるとかどうかしてるで」

もう一度大丈夫か?と聞く謙也くんに壊れた人形のようにこくこくと頷く。彼はそれだけでへらっと嬉しそうに笑った。

「教室まで運べばええんやろ?」
「お、おん」
「ほな、行こ」

軽々と教材を抱えた謙也くんはさっさと歩き出し、私もその横に慌てて並んだ。

「あの、ありがとう」
「ん?」
「ほとんど持ってもらって…」
「当たり前やん、月城さんにはこの量は多いやろ」

女の子にこんなん持たせられへんよ、と照れたように笑う謙也くんはお世辞抜きにかっこよかった。


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