甘やかに密やかに



「…人恋しいのか?」

いつものように朝忍んで紘の部屋にいってみれば、掛け布団を抱きしめて横向きになったまま眠っている紘がいた。
人恋しいならオレにいえばいいのに。
布団の癖に紘に抱きしめられるのはずるい。
起こさないようにぐいぐいと布団を引っ張るとん〜…と言いながら眉間に皺を寄せ、いやいやと紘が首を振る。
ああ、もう本当に…
……羨ましすぎて憎らしいぞ、布団。
布団に妬くなんて一体何をしているんだい、晋作。
小五郎が居たらきっとこう言われるだろう。
でもそんなことは知ったことか。
腕を抱きしめられている布団の隙間にそっと差し込んで行く。少し隙間が出来た隙に布団を抜き取った。

「ん…」

そんなことをやっていたら紘が目を開ける。ヤバい、すごい気まずいぞ。
けどオレは努めて顔に出さぬようにいつも通りを演じる。

「おうっ!紘起きたかっ」

「しん、さくさん…?」

おお、思いっきり寝ぼけている。ぼーっとしたままの紘の顔から目が離せずにいると紘がふにゃりと笑った。

「!」

「しんさくさんだぁ…えへへ、いい夢」

「おわっ」

そういうや否や腕をぎゅっと抱きしめて紘の瞼は再び下りる。
急に引っ張られたオレは滑るように紘の隣に添い寝する形になった。
幾度も添い寝してやろうかとは言ってきたが、必ず断るであろうこともわかっていたし断る時に真っ赤になりながらもー!晋作さん!と言うのが可愛くて好きだった。
でもまさか、こんな。
腕は紘の胸に抱きすくめられるようになっていて、情けないがどうにも動けない。
動いて起こすのも悪いし、真近で紘の寝顔を見ていたいと言う気もする。
鼻先がくっつくくらい近くにある紘の顔。焦点がぼやけるほどだ。
きっと紘が目覚めた時、盛大にうろたえるんだろう。その様子は想像に難くない。
その時までに余裕の顔を作って置かないとな。
勝手に緩んでいる自分の表情を自覚して、オレは思った。
だが。

「挑発したのは…お前だからな」

こんなに近くにいるのに何もしないでいられるほどオレは我慢強い男ではない。
紘の鼻先にちゅっと口づけてやった。
ん…と紘が身じろいだあとまたふにゃりと笑う。

「ああ…くそ、可愛いなお前は」

頭を撫でてやりたい衝動を押さえ込んでオレは平常心を装い続けるのだった。








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