好きになっちゃいけなかったの?



好きになっちゃいけなかったの?







夕焼けに照らされてオレンジ色に染まった教室の中で私は一人しゃくりあげていた。
教室から見えるグラウンドからは威勢のいい野球部の掛け声とカキーンというキレのいい音が聞こえてきた。
何かそれすらももう悲しいんですがどうしたらいいんだろう。
ぼろぼろと耐え間なく溢れる涙をぐしぐしと手で擦って止めようとする。
止まらない。

「好きになっちゃいけなかったのかなあ…」

誰に言うでもなく涙声で声をあげた。また溢れだしてきた涙をぐしぐしと擦っているとありえないはずの声が響いて。

「誰を?」

この教室には私一人だったはずだ。なのに何で忍足の声がするの?ちょっと低くて、甘い声。誰よりも好きな声。

「忍…足?」

「何しとんの紘、こんなところで一人で」

「そ、それはこっちのセリフ!忍足部活どうしたのよ!」

「ん?ああ、ちょっとサボり」

「いけないんだ。跡部に怒られても知らないんだから」

「ま、平気やろ。抜けてくる時跡部も紘と居たんやし」

「部長がサボっていいのか…」

「別にいいんちゃう?跡部も一人の男やろ」

「一人の男ねぇ…」

「それより、さっきから気になっとったんやけど何で紘こっちむかへんの?」

「べ、別にいいじゃん」

「あかん。さっき涙声だったやろ」

「ほっといてよ」

「ほっとけん」

コツコツとローファーの踵の部分が音を立ててるのがわかる。

近付いてるんだ、忍足が。

顔を隠そうか、それとも逃げようか、どうしたらいいだろう。理由なんて聞かれたらどうしよう。
あなたのことで泣いてましたなんて言えるわけない。

「ひゃっ」

そうこう言ってる間に腕を取られてぽすん、と忍足の胸に顔を押し付けられた。
白いシャツが私の涙を吸い取って行く。

「忍…足、」

「俺がいるやろ。一人で泣くなや」

「ずるい、」

「ん?」

「…なんでもない」
















(こんなことされたら嫌いになんかなれないよ。)


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