Last Train



3両目の2つ目のドアから乗ってくる人がいる。いつも遠くから見ていた。ただそれだけで満足していた、のに。










Last Train










今日は朝からホームに人が多かった。どうやらどこかで人身事故があったらしくて、電車も混んでいた。
それでもいつもの定位置のドアの前に立つ。こっちのドアは降りるまで開くことはない。だから安心して背を預けていられた。





「(何でっ・・・!)」

目の前に太ったおじさんがいる。ぎゅうぎゅうと押されて苦しい。ニマニマしながらこっちを見ている。正直気持ち悪かった。
鞄を盾にして、胸の前で抱える。少しでも離れられるように頑張っていた。

それなのに。

「(!やだっ・・・!)」

太ももに触れる手。気持ち悪いほどの手の熱さ。

怖い。

怖い怖い怖い!



思わずぎゅっと目を瞑った、その時だった。

触れていた手の熱さが消えた。恐る恐る目を開けると目の前にいつも見ていた彼がいた。

「(え、何、で・・・)」

「大丈夫ですか、月城先輩」

「は、い、」

何で名前知ってるんだろう。何で彼はここにいるんだろう。おじさんの手をひねりあげる彼を私はただ呆然と見ていた。

『つぎはー・・・○○ー』

必死に耐えている間に彼が乗ってくる駅はとっくに過ぎていたようだった。
そそくさと逃げるおじさん。それに一瞥して私を見る彼。こんな近くで顔を見たのは初めてで、胸が高鳴る。


『○○ー・・・○○ー・・・お降りの方はー・・・』

「っ!」

「ひ、や!?」

降りていった人、乗ってくる人。その乗ってくる人の波に押されて急に日吉君が近づいた。
顔の横に置かれた腕は私を守ってくれていた。

「日吉君」

「すいません先輩、苦しくないですか?」

「あ、うん。大丈夫…です」

「そうですか」

近い。恥ずかしい。日吉君の顔が見れない。続く沈黙。聞こえるのは電車のガタンゴトンという音だけだった。

『△△ー・・・△△ー・・・お降りの方はー・・・』

「くっ・・・!」

乗ってくる人の多さに耐え切れずに日吉君が近づく。
苦しそうな顔。どうしようもない私。

「月城先輩、すみません」

「え、」

瞬間引かれた体、抱きしめられた。
背中に感じる日吉君の腕。ぎゅっと抱きしめられていて体を離す事ができない。

「ひ、よしく、」

「すいません。少しの間我慢していてください」

「違う、腕!」

私の背中を守るように回されている腕が痛そうで私は声を上げる。
腕。腕。
日吉君の大事な腕。テニスをする大切な腕。

「大丈夫です」

「でも、痛そうだよ!」

「こんなのなんでもありません」

「日吉君!」

「俺は、」

少し離される体。真剣な瞳の日吉君。ぶつかった視線が強くて時が止まった気がした。

「俺は、この腕であなたを守れればそれでいいんです。少しの痛みなんて平気なんです」

「え、」

「俺は、あなたが好きなんです、月城先輩」

ええ?えええ?

「あなたが俺を見ていたこと、知っていました。俺も、あなたを見ていたから」

「ひよし、くん」

「すきだから、守りたいと思った」

「ひよしくん、」

「あなたが大切だから」

「日吉、くん!」

「っ!?」

おもわず、矢も立ても堪らず彼の腕の中に飛び込んだ。驚いて言葉を失ったかれの顔を見上げて泣きながら、笑った。

「私も、好きです。日吉君のことが、好きです」

いった途端日吉君の顔は真っ赤になって隙間なく私の体と日吉君の体がくっついた。





あなたを見つめるだけの電車は、コレが最後。




終着駅はあなたの腕の中。


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